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狭い玄関でシズちゃんが屈む。シューレースを丁寧に解いて、靴を脱がされた。なんか大事にされてるみたいで気分いいなって思ってたら、そのまま肩に担がれた。
「ちょっ!なにすんのさ!」
お姫様だっことかなら夢があるけどさ、担ぐって何?死体みたいじゃんか。
「うるせー」
シズちゃんはドカドカ部屋に入ると、あろうことか俺をベッドへ放り投げた。
「イタッ!」
安物でたいしたスプリングもないベッド。跳ね返りもなく、ドサッてお尻打った。スカートもめくれかけて慌てて裾を押さえる。
「見えても良いだろ」
「…恥ずかしい」
「んな格好で今更かよ」
ごもっともですね、ハイ。
シズちゃんが裾を押さえてる俺の手に自分のを重ねて、キスしてくる。さっきみたいなのじゃなくて、啄むような軽いキス。
「シャワー」
「あ?」
「汗かいたし化粧落としたい」
これからすることなんて一択だから当然の要求。
「断る」
「なんで!」
「久々に甘楽ちゃんとセックスしてぇ」
「変態」
シズちゃんが俺の顎に指を添えた。
「動くなよ」
キスされるのかと思ったらティッシュで唇をゴシゴシ拭かれる。
「んっ、ちょ、痛っ‥」
ヒリヒリする唇をペロって舐められた。
「よし。口紅マズいからな」
蠱惑的な赤が落とされた唇に、シズちゃんの煙草臭い唇が触れる。ちゃんとシズちゃんの味がするキス。
クラクラするのは酸欠か快感か、はたまた肺いっぱいに吸い込むシズちゃんの匂いのせいか。きっと全部。全部が気持ちいい。

チュッてリップ音をたてて離れたシズちゃんが耳元に顔を寄せてきた。
「甘い匂いすんな」
犬みたいにフンフン嗅がれるのがくすぐったい。
「ん、女物の香水つけてる」
気に入ったのか耳の裏を舐めたり首筋を噛んだりしてる。
「ね、シズちゃん」
「あ?」
「さっきの、俺が男の格好でも言ってくれた?」
ちょっとだけ不安で、シズちゃんが重ねてる手を握り返した。
「さっきの?」
「おれのモノだっ‥て」
うつむいて語尾が小さくなる俺に、シズちゃんはハハッと明るく笑う。
「笑うな」
「わりぃ。別にテメェが女の格好してたから言った訳じゃねーよ。いつもの暑っくるしい格好だって同じ状況なら言うぞ」
「あっそ…」
嬉しくて嬉しくて仕方なかったけど、ニヤケそうな顔を引き締めて素っ気なく返した。
「んなこと気にすんなら女装なんざやめろよ」
黙って頷いた。女の格好して思考回路まで女になったね。不覚だよ。
「あー‥俺の前だけならいつでも良いぜ」
「変態」
二回目のセリフは冷たく言ったつもりだったけど、なんか拗ねたみたいな言い方になった。そしたらまたシズちゃんが笑うから、握った手を解いて抓ってやった。無意味だけどね。

シズちゃんの拳には乾いた血が付いてる。シズちゃんはお馬鹿さんで避けるってコト知らないから、いっつもいろんなとこから血でてる。
手を取って、拳に付いた血を舌先で舐める。口に広がる鉄の味。シズちゃんの味。
「おい、きたねぇぞ」
シズちゃんを無視して舐め続ける。拳が終わったら腕、腕が終わったら額。どれも掠り傷程度だけどね。
「気が済んだか?」
額から唇を離すとシズちゃんが呆れたように笑った。今日のシズちゃんは良く笑う。

「じゃあ俺の番な」
ギシッて安物のベッドが軋んだ。




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