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エレベーターが下降すると同じくらい自分の気も滅入ってくる。どんどん小さくなる数字がいつか0になってしまいそうで。そしたらオレも、折原さんにいらないと言われそうで。
そんなどんよりした気持ちでエレベーターを降りると歩道をウロウロしている日々也を見つけた。
「日々也!!」
声を掛けるとエントランスに走ってきた。
「どうした?めずらしいな」
「・・・いや、誕生日だと聞いてな。迷惑だったか?」
「日々也が来てくれたのに迷惑なことなんてないよ」
マントの裾を掴んで俯く日々也を抱き上げた。
「うわぁ!お、降ろせ!恥ずかしい!」
「お!暴れんな。危ねぇよ」
バランスを崩さないように抱え直すと、日々也が恥ずかしそうに顔を俺の胸に押しつけてきた。
「今日はあのクソ・・執事どうしたんだ?」
「嘘をついてしまった。人生で初めてだぞ?」
クスクス笑う小鳥のような声にさっきまでの暗い気持ちが吹き飛んだ。思わず抱き締める腕に力が入る。
「どうしたのだ?子供のようだぞ」
「!!」
そっか。なんとなく分かった。折原さんはオレのこと子供みたいな感じだったのか。甘えて甘やかして、でも対等になれない。
「おい、大丈夫か?」
「あぁ。心配させてワリィ」
日々也を抱えたままエントランスにあるベンチへ腰掛ける。
「くしゅんっ!」
「寒いか?最近冷えてきたもんな」
「大丈夫だ。誰かが噂していたんだろう」
笑った日々也の手に触れたらとても冷たかった。
「連絡くれれば良かったのに」
「不覚だった。こっそり出てきたものだから伝書鳩を忘れたのだ」
真剣な顔に笑いがこみ上げる。
「で、いつから待ってたんだ?」
冷えた手を包み込む。
「聞いたら不快に思う程度だ」
「不快って大袈裟だなぁ・・・朝からでもいたのかよ?」
冗談混じりに聞いたのに日々也の体が強ばった。
「朝からいたのか!?」
「け、軽蔑するだろう・・・もういい。離せ」
腕の中で暴れる日々也の頬に口付ける。
「嬉しい・・・」
「戯言を申すな」
「本気だよ・・・スゲー嬉しい。こんな気持ちになったの初めてだ」
折原さんへの気持ちとは違う、好きって気持ち。たぶん愛しいって気持ち。良く分かんないけど暖かい気持ちだ。
「本気なのは分かった。・・・だから泣くな」
泣くな、といわれて自分が泣いてるのに気付く。さっきの涙とは全然違う。
「ごめんな、オレ‥情けなくて」
そんなオレを日々也は背中を撫でて落ち着かせてくれた。

ポケットに入ってる折原さんからもらった1万円を握りしめる。
「日々也、通りに新しいカフェ出来たんだ。行こう」
「だが・・・私は手ぶらで来てしまった。カフェとやらに入るのも初めてで迷惑かけてしまうぞ?」
「大丈夫、オレがいる。一緒に行こう?紅茶が美味しいんだ」
「お前、紅茶は好まないだろう?」
「うん。でも日々也が好きだから調べた」
「そうか」
日々也の顔が赤くなった。いままでも可愛いと思ってたけど、これからは常にこの顔をさせておきたいと思う。
「1つ聞いていいか?」
「なんだ」
「オレの誕生日、誰から聞いたの?」
「それは・・・」
「折原さん?」
俯いてしまった日々也の顔を覗き込むと、どうして良いかわからない風に目を泳がせていた。
「そっか。ありがと」
「秘密にしろと言われた。すまないが黙っててくれないか?」
「もちろん。さ、行こう!!」
「あぁ…あ、その‥」
「ん?」
「誕生日、おめでとう」
撤回する。
今日は最高の誕生日だ!!!





「やりすぎじゃねぇのか?」
玄関のドアが閉まる音を聞いたシズちゃんが呟く。
「そう?もう1年経つしね。そろそろ親離れしないと」
「つってもよぉ・・・」
腑に落ちなそうなシズちゃんをなだめるように首へ手を回した。
「デリオはまだ子供なんだ。母親へ向けるのと同じ感情を愛だと勘違いしている。敬愛であって、恋慕では無いよ」
それに甘えてきたのは事実だけど。だから責任取らなきゃ。
「めんどくせぇ」
「面倒でも知るべきだよ、本当の愛の意味を。アイツが君に似せただけの無能な人形じゃなきゃ理解できるはずさ。これが俺からの誕生日プレゼント」
「ひねくれた親を持つと、子供も大変だな」
苦笑いするシズちゃんの首を引っ張って、屈んだところへキスする。
「協力してくれたお礼」
「足んねぇな」
シズちゃんの手が腰に回って寝室へ続く階段を昇る。途中、窓から階下を眺めると白いスーツの横に金色のマントが翻るのが見えて安心した。顔の表情までは見えないけどね。きっと大丈夫。




デリ、誕生日おめでとう!
そして中途半端で申し訳ない…





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