2

昼間ノミ蟲に会った。
いつも通り喧嘩した。
いつも通りのはずだったが、引っかかる。俺に死んでと言いながら笑った顔が、いつもの憎たらしい笑顔でもなく、胸くそ悪い営業スマイルでもない。
あれ、笑顔なのか?泣きそうな、消えそうな、薄い笑み。
クソっ!変な顔しやがって。気になって仕方ねぇじゃねぇか。
それを引き摺って新宿まで来ちまった。


「シズちゃん…?」
エントランスに入ってきたノミ蟲に声を掛けられて、我に返る。
「なにしてんの?こんな時間に」
はぁ…とため息を吐きながら「とりあえず家、あがったら?近所迷惑」と、ロックを解除し、一緒にエレベーターに乗った。
狭い空間がノミ蟲臭で満たされる。ノミ蟲臭?違う。違う臭いがする。
確かめる為にノミ蟲のうなじに顔を寄せた。
「ちょ‥何してんのさ!!」
気付いたノミ蟲が慌てて俺と距離をとった。今更この程度で照れるような仲じゃない。
「あぁ?別に良いじゃねぇか」
無理矢理引き寄せて首元に顔を埋めた。

―――違う煙草の臭い

コートの襟を掴み上げ、キスする。きつく閉じた唇をこじ開け、舌を差し込む。俺のと違う苦味が口に広がり、苛つく。
「んぅ…っ」
苦しそうな喘ぎが聞こえ、胸元をドンドンと叩かれる。
「っ!!」
無視してたら舌噛まれた。
「痛ぇな、クソっ」
滲む血を指で拭いながら、手を離す。

「信じらんない!死ね!」
最上階に着いたエレベーターから走って部屋に向かうノミ蟲を追う。ドアが閉まる寸前に悪徳セールスよろしく、足を差し込む。
「消えて」とグリグリ足を踏むノミ蟲を押し込んで、体を滑り込ませた。

「誰の臭いだ?」
「はぁ?」
「誰の臭いをつけてんだって言ってんだよ」
「シズちゃんに関係ないでしょ?」
その言葉で更にイラついてノミ蟲を肩に担ぎあげ、部屋に上がる。
「なんなの!?ふざけんな!!」
喚きながら背中を叩くのを無視して風呂のドアを開け、浴槽に放り込みシャワーを出した。

「つめたっ!…最低」
流れる水より冷たい声色で呟く。
「テメェよりはマシだよ」
「自分のコト、棚にあげちゃうんだ」
「あぁ?なにがだよ」
今度は俺がベストを掴まれて、浴槽に引きずり込まれた。


間近でみたノミ蟲の目が濡れている。
思わずさっきまでの苛立ちを忘れ、そっと目元に口付けた。




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