「おい、太陽」
「何よ。生意気な坊やね」
「ここから出してやる。お前も協力しろ」
「えー…………。どうしようかしらね」


つぶてをなげられた猫のように絢は眉を寄せていた。
お天道様はどっちつかずの態度でもだもだと答えを先延ばしにしている。
どうやらお天道様にも、何か含むところがあるらしい。


「……お天道様、お願いがあります」
「何よ」
「私と一緒にここから出て、町を照らしなさって下さい。みんな貴女がいなくて困ってます」
「月は?」
「え?」


私の言葉に対するお返事ではなかったので、私はびっくりしてしまった。なんとも気の無い青瓢箪のようなとぼ気声で、「お月様、ですか?」と尋ねる。


「そうよ。月。彼は……何とも言っていなかったの?」


お天道様の温かな光が微かに揺らいだ。


「私は今日、お月様にお会いしていないので、なんとも言えませんが……」
「…………そう。つまり月は、何もしていないのね」


少し寂しそうな感じの色を見せたお天道様。心なしか、その光も弱まっていた。
私は首を傾げる。


「お天道様は、お月様に心配をかけたかったのですか?」
「まあ、そうなるかな」
「お月様を困らせたかったのですか?」
「そう言えるわね」
「お月様が、お天道様が消えたというのに何もなさらなかったことを、貴女は悲しまれているのですか?」


お天道様は何も返さない。
ただいつものようにゆらゆらと、その豊かな光を放っていらっしゃるだけだった。


「別にただ月を困らせたかっただけじゃないわよ」
「と言いますと?」
「教えてほしいの? 野暮よね」
「あっ……すみません」
「いいけど…………、かかっ、勘違いしないでよっ? べっ、別にあんたのことなんて、気の回らない蕪顔女だとか出歯亀は深海で藻に絡まって窒息死してろだとか、そんなの、全然思ってないんだからねっ!」
「はい。お天道様がそのような優しい方で安心しました」
「…………飴乃菓、多分お前はわかってない」


呆れた目で私とお天道様を一瞥する絢。
あれ。
絢の目、いつものアイホールになってる。……薔薇の花も少しずつ伸びてきた。…………あっ、そっか、今目の前にお天道様がいらっしゃるから、その光を浴びているから。

身体が“陽”を感知したんだ。

彼のその花盗人本来の形に、お天道様は「あれ?」と声を漏らす。


「あんた、花盗人だったんだ」
「……………」
「今まで何人もの花盗人に会ってきたけど、こんな若い歳で花盗人になった人間、私初めてみたわ」


多分、今、お天道様は笑っているんだと思う。彼女の光が少し不自然に揺れていた。
私は眉を寄せる。
花盗人だからって理由だけで、絢を笑われたくはなかった。
確かに彼は皇室の幻花を盗んだけれど、それはただ誰かに贈りたかっただけで、彼の行動には悪意の一破片もないんだ。

気高い彼を。
美しい彼を。
どうか笑ったりしないで。

しかし。

私が予想していたような、醜く責め立てるが如く心地の悪い言葉から反するように、お天道様は彼に続けた。


「あんた、本当に優しい子だね」



::
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -