小宇宙のような星屑の地面を踏み締めて、私たちは菩薩党のお爺さんの邸宅を目指す。
魔法使いさんの言葉を聞く限り、菩薩堂のお爺さんがお天道様を盗まれたに違いなかった。


「ここだ」


絢は足を止める。彼に少し遅れて馳せ参じた私は、膝に手をついて一息吸ったあと、そこで顔を上げた。


「ここが……」


菩薩堂酌羅邸。

まるで一大旅館のような重光なる佇まいのお屋敷。美しい形をした大きな提灯が、三つも四つも列なって、屋敷の壁を照らしていた。艶やかな瓦には汚れ一つなく、また、緑の太柱には高貴さと威厳が感じられる。目の前にそびえる大きな門にまで家主の魂が入り込んだような、壮大なお屋敷だった。
私は、その壮大さに目を奪われ、絶句してしまう。


「おっきいね…………」
「資産家だからな」
「家の表札に百万円札使ってる家を、私は初めて見たよ」
「世界中何処探したって此処以外には無いだろうな。行くぞ」


絢はぶっきらぼうにそう言って、大門を押して入った。ギギギギィという歪な音とともに、大門に阻まれていた視界が開けてきた。
まず目に留まったのが海の庭だ。蒼い海が門から家の周り一面を覆っていて、そこには薄紫や薄桃色に煌めく美しい珊瑚礁。ゆらゆらと揺れる海藻に、今までに見たことのないような綺麗な鱗を持つ魚たちが泳いでいた。
ごぽごぽと空気泡を吐き出しながら、私は絢を見つめる。


「とっても綺麗なお庭だね」
「あの強欲な爺さんのことだ、また何処かの海を盗んできたんだろう」
「お金持ちはやることが違う」


少し生温い感覚を全身に浴び、それでも先へ進むたび、髪が流れに乗ってゆらゆらとたわんだ。
そのまま海の庭を超えて、絢は礼も声もかけずに家の扉を開けた。

不躾な絢もどうかと思うが、鍵もかけない不用心なお爺さんもどうかと思うな。

私は肩を竦めて彼に続いた。

家に入らせて貰えば、海水の生温さからは簡単に抜け出すことが出来た。全身ずぶ濡れにはなってしまったが、あんな美しい景色を見せてもらったのだから反古としよう。
家の中は外観に負けず劣らず豪奢であり、艶めいた木床や古そうな壺から、いかにも資産家然しているなと私は感服してしまう。おまけに廊下は大きく長い。何処まで先に続いているかはわかるはずもなかった。


「お天道様はどこにいらっしゃるんだろう」
「手当たり次第に探すしかないだろうな」
「まあ、お天道様も大きくいらっしゃるのだから、大きな部屋におられるだろうね」
「そうなると、扉が暫く続かない部屋が怪しいだろう。行くぞ」


こういう理論的な推理が絢は得意だった。やっぱり取り返してもらいに行くのに、絢の力を借りて正解だった。

私たちはその長い廊下を歩み出した。



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