足元からじわりと伸びる、強く鋭い針のような痛み。その刺激は急速に身体へと巻き付く。
そう、――――巻き付く。
豪奢な紅い薔薇を咲かせる、その茨が。
その茨はまるで意思があるかのように私のふくらはぎを包み、そのまま太股へと上りつめる。スカートの中にまで浸蝕が進み、直に棘が突き刺さった。茨はまだまだ巻き付き、腰をも攻め上げる。胸、腕、肩、首にまで巻き付き、じわりと制服に血が滲んだそのとき。
――――コツン。
私のものよりも少し重いローファーの鳴る音が、隣から聞こえた。

古びたような薔薇の匂い。
私の高校と同じ学ランに前鍔の深い学帽。
絹糸のような少し長めの黒髪に、ぞっとするほどに整った容姿。

葉荊絢人(はいばら・あやと)。


「…………久しぶりだね、絢」
「元気そうだな」
「そう見えるなら阿呆だよ。絢の茨が凄く痛い」
「痛そうにはとても見えない」


そう言うと、茨の締め付けが強くなる。私は小さく呻きを上げた。
彼の足元と手からは、豪奢な深紅の薔薇を咲かせる鋭利な茨がまるで威嚇するように波打っている。まだ茨の浸蝕は進み、セーラー服の襟の中にまで侵入してきた。
私は痛みを堪えて彼に言う。


「じゃあ痛いって言ったらやめてくれるの?」
「まさか」
「だろうね」


絢はそういう人間だ。


「でも相変わらずのご挨拶。なんで私は絢に会う度に血まみれにならなくちゃならないのかな」
「なんでだと思う?」
「わからないから聞いてるのに」


すると彼はニヤリと口角を吊り上げた。

葉荊絢人。
多分同校同学年、実際学校生活中に擦れ違ったことすらないので定かではない。
そして、彼は、花盗人だ。

皇室の幻花を手折った罪で、呪詛をかけられた少年。
彼の歩む道には薔薇が生え。
そして彼自身も侵される。陽が昇る間は、彼の左目はくり抜かれたようなアイホールと化し、そこからは一際紅い薔薇が伸びている。夜、陽が沈んだ頃になれば、呪詛をかけられる前の姿に戻れるようで、今も彼の姿は私と何分変わらない瞳が見える。
彼は何故か私に会う度にその蔓を身体に巻き付かせて来る。正直迷惑極まりない。しかも、その棘により裂かれた私の肌を舐めてくるのだ。全身くまなく、隅から隅まで。傷口に唾をつければ治る、という知恵袋を信じて、さしたる口出しはせずにいたが、くすぐったくて仕方がない。以前、下着の中にまで侵入した傷痕まで舐めようとした際は流石に強く拒んだ。いくらなんでも、乳を舐め回されていい気になる女子ではないのだ。



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