「ていうか。あれ? 二人とも今日、なんか可愛くない?」
「あっ、わかる?」
「今日マスカラつけてんだよね」
「二人とも元から長いからいらないと思うのに」


瞬きすれば旋風を巻き起こしそうなその長い睫毛をしげしげと見詰める。


「でもクラスの水草がさ」
「水草くん? ……ああ、毎回学ランが脱げかけの」
「そいつそいつ」
「なんであの身体で小さいサイズの学ラン着ねーんだよ」


水草くんはクラスメイトの男の子だ。赤い身体が綺麗な鯉の姿をしている。毎回学ランが脱げかけの状態で、女子からは変態扱いを受けているある意味可哀相な子なのだ。


「で、その水草がさ、あたいらのことブスだっつーからね」
「舌長いしーぃ、眠そうな顔してるしーぃ、とかさ。ムカついた」
「だからあたいらもちょっとはマシになろうとね」
「へえ」


杏子も柚子もムカッ腹が立っているのか鼻息をふーふーと荒げていた。それにしても水草くんも酷い人だ。一介の女子にそんなことを言うだなんて。


「そのくせ、明石さんにはヘラヘラしちゃってさ」
「本ッ当わかりやすいよな」


私は「ああ」と頷く。
明石萌華(あかし・めぐみか)、私や麒麟姉妹のクラスメイトであり、蝸牛学園のマドンナである。
はんなりとした言葉遣いに上品な物腰。およその者が目を奪われるような可憐な容姿をしている。華奢で愛想もよく、小鹿のような少女だと、私も思っていた。


「まあ、明石さんは性格もいいしね……。おまけに家はお金持ち」
「明石料亭な」
「この前食べに行ったよ、高かった」
「でも味は確かだった」
「跳梁跋扈町が誇る味の財産だものね」


私は肩を揺らして苦笑した。
すると彼女たちは、気付いたように顔を上げる。


「そうそう、飴乃菓」
「うん? なに?」
「なんで今日こんなに暗いのか知ってる?」


私は首を横に振った。
当たり前の反応である。
私のような、姫林檎が如き若輩者が、そんな大層な時事ネタを所有しているわけがない。
すると、麒麟姉妹は「あのね」と話を続ける。


「さっきの学校の貼り紙にあったんだよね」
「えっ…………?」


杏子はパチパチと瞬きをする。長い睫毛が重なった。私はそれを見ながら、オモシロオカシイその現象について頭を捻らせていた。


「お天道様、盗まれたらしいよ」



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