《ギルド》破棄に至り、今は皆が引っ越しの準備をしている。荷物の量が半端じゃないようで、出発は明日の朝か遅くとも昼になってしまうらしい。
客人である俺と萵苣とスケベ女はどこと無く居場所を失ってしまった。


「せや、硝子ちゃんたちはこっからどぉする気なん?」


瞬刹那が大きな段ボールを抱え込みながら、部屋の端で所在なさげにする俺達に声をかけた。
んー、とスケベ女は首を傾げる。


「明日まで出発しないのなら、それまではここに居させて頂けたら光栄なんだけれど」
「全然ええよ、むしろウェルカムやわー。てかずっと俺らと」「ハイハイ、さっきから琢磨が呼んでるぞ刹那」
「うわ、ほんまや! ほなな!」


忙しい動作で走り去る刹那の姿を見送りながら、スケベ女は確信犯のような優雅な笑みを浮かべた。


「なあに、萵苣。もしかして、あたしと彼が話しているのに妬いちゃったー?」
「妬いた妬いた。何お前俺の刹那と喋ってんだよ」
「……………あら、失礼」
「ジョークだジョーク、俺だってジョークくらい言うって」
「うふふ、大丈夫。あたし、恋愛ならどんなことでも寛大なつもりよ?」
「だから違うって!」


萵苣が無闇に自滅している。
脇を通る人間たちが、小さく噴き出していた。

やいのやいのとビルディング全体が慌ただしくなっている。

俺は「そういえば、」と萵苣に話し掛けた。


「レタス号三世の修理は進んでるの?」
「あん? もう完了したぜ? 窓ガラスと枠組みの破損だけだったからな、ここの奴らに材料提供して貰えたから一瞬だったさ」
「お見事」
「ははは、俺じゃなくて壊し方が良かったんだよ」


壊した人間。
要害堅固。


「さて、じゃあ、明日手っ取り早く巣立てるよう、俺達も荷物整理すっかね」
「発つ鳥跡を濁さず?」
「そうだな。よし、じゃあ」「待って」


……と、スケベ女は少し強意の含んだ、しかし、いつも通りのフローラル混じりのたおやかな声音で俺達に言う。


「信号機」
「……………」
「まだ取れてないわ」
「……諦めたんじゃ、なかったのかよ」
「まさか。あたしに妥協と醜悪の文字は無いわ」
「なら観念と美徳の文字はあるんだな。いい加減に公共の物を盗むな、観念しろ、美徳に欠くぞ、硝子」



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