「……………」
「……どうも」


俺は思わず会釈した。
相手も気まずそうに押し黙る。

ギルド一階玄関付近。
カウンターの個室内で奇妙な鼻歌を歌う愛新覚羅祥玲を横目に、俺と要害堅固はバッタリと出くわしていた。

要害堅固。
元死刑執行奴。
俺達を襲い、車を壊した張本人。


「何……どっか出かけんの?」
「ああ、食材の買い出しに」
「店開いてる?」
「奴隷狩りを免れたのは、俺達だけじゃないからな……何軒かは」
「ふぅん…………まあ、行ってらっしゃい」


俺がそのままギルドの中に戻ろうとすると。


「…………――――悪かった」


と、小さな声が聞こえてきた。
少し呻くような声に似ている。
最初は何かと耳を疑った。
執行人用のマスクに埋もれるような力不足な声。
しかし、それを聞き漏らさずに、俺は振り返った。


「何が?」
「……濡れ衣をかけたこと。そして、車を壊してしまったこと」
「ああ、そんなことか…………」


俺は首を傾げてうなじを掻いた。
気だるげに、告げていく。


「許してないわけないだろ」


マスク越しから、息を止めるような音が聞こえた。肩は安堵を伺わせるように、落としている。


「あんたはちょっとタイミングと運が悪かっただけだよ」
「……………」
「みんなを守りたくてやったことなんでしょ?」
「……………」
「気にしなくっていいから」
「…………」


すると要害堅固は、吐息のような溜息をついた。


「俺は、ずっと人を殺してきた」
「……みたいだね」
「死刑執行、なんて言っても、犯罪者ばかりじゃない。濡れ衣を着せられた者、政府の横暴を弾劾した者。罪のない老人や赤子まで、たくさん殺してきた」
「……………」
「だから、今度は、守ることに決めたんだ」
「……いい決意だよ」


振り返りもせずに、要害堅固は出ていく。愛新覚羅祥玲は、「行ってきな」と無気力に手を振る。
そしてドアの閉まるとき。


「お前もここにいるうちは、俺が守ってやる」


――――――バタン。

そのまま俺は歩きだした。
やや苦笑混じりの溜息をつく。
一つ間を開けて。


「ホモかよ」


と。悪くない気分に身を任せて、そのまま歩みを早めた。


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