「特に俺達にはスロットが一番当てやすいだろうね」
「スロット?」
「Yes,ズルでも運でもなく、まさしく正攻法で、一番確実に稼げるゲームだよ」


ズルでも運でもなく。
正攻法で?


「簡単さ。三回“見送れ”ばいいだけ。その最初の三回は諦めな。必要な犠牲だろう。その三回は小金を賭けて、四回目以降は全賭けでいいはずさ」
「ほう……?」
「ちなみに緑のおにーさんやミス・硝子には無駄だろう。二人はスロットより他のゲーム向けだ。特に緑のおにーさん」


“俺?”と、萵苣は自分を指差した。
正直啄木鳥の意見には賛成だ。
萵苣はスロット向けじゃないだろう。スロットに賭けるだけ賭けてバンバン負けていく姿がありありと目に浮かぶ。
啄木鳥も割とあたしと同じ感性をしているのかもしれない。だからといって仲良く出来る自信は毛頭ないわけだけれど。


「それに君達にはミス・硝子がついてる。彼女がいれば、カードゲームで負けるようなことは、きっと夢でさえ起こらないだろうね」


ひんやりとした笑みを浮かべる啄木鳥に、あたしは目を眇めた。あたしは「買い被りすぎだわ」と返したけど、啄木鳥は意見を訂正する気などこれっぽっちもないらしい。


「それは硝子が元ディーラーだからか?」
「Oh,おしいね。半分正解だ。彼女が噂の元ディーラーだっていうことも一利ある。先輩たちは、ここが一定のイカサマを常識として扱っているのは知ってるだろう? 特にカードゲームなんかはそいつの吹き溜まりさ。特定のテーブルじゃ、イカサマを使わなきゃ万が一にでも億が一にでも勝てやしない。でもディーラーの手の内を知っていたら。他のプレイヤーの手をある程度熟知していたら。ゲームをするまでもなく勝つことが出来るんだ――そしてその術に、ミス・硝子は長けている」
「お褒めにあずかり光栄だわ」


そりゃ、あたしはここで働いていた身の上。ディーラーがどこにカードを隠し持っているか、テーブルのどこに仕掛けがあるか、相手がどうやってカードを仕組むか、ある程度働いていたら厭でもパターンを覚えてしまうというものだわ。


「だから勝てる、と?」
「ただそうだから勝てるんじゃないさ」
「焦らすな」
「Sorry! ……なんてったって、彼女ね、ここ《錯乱カジノ》のディーラーで……しかも階級はクズネッツなんだ」


これがどれだけすごいことかわかるかい?
啄木鳥はなんでも知ってるふうににやりと笑った。


「最高階級はコンドラチェフだけど、あんなのは化け物が座る席だよ。ドアマンの羞月閉花、バニーガールの花鳥風月――戦闘能力を有する人材、所謂所有兵器さ。コンドラチェフは別格として扱っていい。問題は次のクズネッツさ。こいつは、その戦闘能力を抜きにして、なおかつ優秀な人材であることを示している。契約期間は二十五年。二十五年だ、あの《錯乱カジノ》で! イカサマとペテンだらけの錯乱カジノで、二十五年は働く価値があると、二十五年は――誰も彼女に敵うことなどないだろうと――そういう意味なんだよ」


騙し合いの世界で――二十五年はあたしを敗る人間なんて現れないと。
茫然とする二人に、啄木鳥は「おわかりかい?」と首を傾げて見せた。


「だからここでカードゲームをするときは存分に彼女を頼るがいいさ。ぼろ勝ちだろうから」
「硝子…………お前って、実はすげーやつだったんだな」


あたしをじっと見る萵苣に「今頃気付いたの?」と強気に微笑む。正直顔を覆いたい。いーやいやあたし別に大した人間じゃないんでキャア的な。


「すごいもすごい。ミス・硝子の噂はいたるところで耳にするくらいだからね」
「噂……?」
「そうさ。“人でなしの硝子”って言やあ、聞き覚えがあるんじゃないのかな?」


――人でなしの硝子――。
それは柳谷菜戯も言っていた。
その言葉に魚は目を細める。
あたしも同様に。まさかそんなあだ名がついていたなんて。誰が犯人かしら。《ドアマン》か《バニーガール》か――――さもなくば《彼》でしょうけど。


「すごいよね、ミス・人でなしの硝子」


厭味を込めて、啄木鳥は笑う。


「君、一人の男を取り殺したんだって?」


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