――――血の華の香りで、身体中がいっぱいだ。
手には厭な感触がこびりついて離れない。もう慣れてしまった刃の重みは、体感としてゼロに近い。

誰かが言った。
虐げられた灰被り姫だって他人事には思えないな。
誰かが言った。
ここから抜け出せるなら地獄だろうが喜んで行く。
誰かが言った。
ブリキの様に心が無ければ苦しまずに済んだのに。
誰かが言った。
誰かが言った。
誰かが言った――……。

――嗚呼、神様、なんてちっぽけな世界に産み落とされてしまったのだろうか。

赤く彩られた闇の淵。酷く冷めた世界。光すら見えない閉塞された場所。茹だる絶望を持て余すだけの毎日。
嗚呼。
嗚呼。

神様。

――――――――――神様?
何を世迷言を。
神など存在しない。この辛苦から救い出してくれるような都合のいい存在なんていない。


自分で、どうにかするしかなかった。
ずっとずっと孤独だった。
周りは、一人残らず敵だった。
だから弱さなんか見せられなかった。
自分が、自分で、自分を、救い出すしか、自分自身が救われる方法はなかった。


逃げ出せ。
逃げ出せ。
こんな最悪に最低な場所から。
逃げ出せ。
逃げ出せ。
世界一最低な、《そこ》から。



*****



「うぐ、ぁ、えっぐ、ぅうううぅうぅっ、うっ、ふゎ、う、ぅう、あ、ぅぁあぁあ、ぇぁ、ぐすっ、ぇぇええぇん、ふゅ、ぅっ、えぅぇえええっぐ、うぅう、ふぇぇえぇええぇええんっ!」


最初は嗚咽するような声だった。しかし、それは次第に大きくなって、わぁわぁと泣き出す巨声になる。《ギルド》の中庭にへたりこんで、あられもなく泣きじゃくる子供。痩せこけた手で顔をぐしゃぐしゃと覆い尽くして、涙を懸命に拭いている。

萵苣は呆気に取られたまま動かない。中庭の少し離れたところでひなたぼっこしていた俺も、奇怪な状況に眉を寄せていた。

ロの字型にくり抜かれた芝茂る中庭で、スケベ女、マリ=ファナ、苛見苛、四面楚歌が、大縄跳びをしていた。スケベ女と四面楚歌がぐるぐると大仰に縄を回して、その中で子供二人がピョンピョンと楽しそうに跳んでいる。なんとも和む光景だった。その時、苛見苛が、中庭でまどろんでいる人間や渡り廊下を渡る人間に、一緒にやらないかと誘っていた。萵苣もその一人だった。一階の廊下で《ギルド》の何人かと何やら話していた萵苣は、窓越しに少女に勧誘を受ける。許諾か遠慮かは定かではないが、その返事をしようと苦笑まじりに窓から身を乗り出した瞬間。

苛見苛が、崩落した。

それは、崩落だった。足元からストンと呆気なく、崩れ落ちるように芝にへたりこむ。
萵苣が首を傾げて数秒後。

苛見苛は泣き出した。


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