「にしても。一体どういうことだろうね、誘発屋。年下の男を侍らせて。俺や雀や天子といいもしやアンタは年下好きかい? Uh oh,オトモダチのオーナーが泣くんじゃないかな」


鳥はあたしの背後にいる三月を見遣って言い放つ。


「ああ、誘くん結構淋しがり屋だもんね。でも大丈夫。彼はあたしのすることを厭がるような優しくない人間じゃないよ」
「まあそんなことはどうでもいいとしよう。この際後ろにいるボウヤは気にしない。久々の再会を楽しもうじゃないか、喧嘩誘発屋」
「あはははははっ。そーんな嫌そうな顔で言われてもねーぇ」


あたしは口角を上げた。
啄木鳥。
元、戦奴。
あの《*+α》で次期永世トップとして名を馳せた、殺人術に秀でた男。
現在は魚くんのように逃亡生活を送ってらっしゃるご様子。《カンパニー》から追っ手がいるかは定かではないにしろ、今こうしてピンピンしているのだからそれなりの生活は送れているようだ。右も左もわからないこの現世でどうしているかは謎なわけだけど。


「よく今まで生きてたよね」
「また厭味かい?」
「あはははっ、違うよ、これは割と賛美。よく生きてたよね。逃げてもどうせ行き倒れると思ってたのにな」
「カジノで一発あてちゃってね」
「むしろそんなとこ行けたの?」
「おかげで暫くは遊んで暮らせるよ。そうだ、誘発屋、今度俺の屋敷に遊びに来るかい?」
「しかも定住してるの?」
「Oups! ああ、ダメだ。今実はほぼ無一文だったりするんだよ。今変な奴らに屋敷乗っ取られてちゃってね」
「元戦奴が?」
「ちょっと“彼女ら”には貸しがあったのさ……まあいいや。俺はあっちこっち移動するほうが性に合ってる」


“彼女ら”、と言ったとき。鳥はあたしと会ったときよりも心底疎ましそうな顔をした。……なんだろう、その人間に乗っ取られたのだろうか。
まあ。
あたしには関係ないが。


「それにしても喧嘩誘発屋。相変わらずアンタは病弱そうだね」
「そう?」
「前会ったときは包帯なんて巻いていなかったしね。まだお転婆してるのかい? 笑えるよ。女性はどうしとやかであるべきか、紳士の趣味を教育してあげようか?」
「遠慮しとくよ。アンタに紳士を語られてもねぇ」
「顔色もまた随分と悪いな。足の調子もあまり良くなさそうだし。仕方ないな。タクシー乗り場まで送ってあげるよ」
「は? いや、別に足は悪くないけ、」


ど――――というあたしの音とともに。硬い珊瑚を白金で砕くような響き。嘴のような閃きが見えたかと思うと、彼は剣で、あたしの足の甲を刺した。


「………っ」


激痛と鮮血。
いきなりのことにあたしは目を見開いた。
一瞬でその刃を抜き取って、軽く振って剣に着いた血を薙ぎ払う。そして、満足したように瑠璃貝のような目を微笑みで満たし。玉の杯に氷を落としたような響き。剣を鞘に納めた。


「ほうら、怪我をしている。俺に甘えてみたらどうだい? 喧嘩誘発屋」
「っの……ゲス野郎」
「Oh no please! あんまりな言いようだね。アンタらしいといっちゃらしいけど。さあ、行くよ」


彼はあたしの腕をぐいっと引っ張り俵担ぎにする。ふざけるな。あたしは米か。
ふと三月を見遣ると、相変わらずの眠そうな顔。欠伸をしながら、健気にも鳥の後ろについてきている。あたしが刺されたとき三月が動かなかったということは、少なくとも鳥からは殺意が感じられないということだろう。そしてそれは多分、今も変わらない。
まあいい。
ならば今は、この男の戯れに付き合うとしよう。


「……ていうか。鳥、アンタはいいの?」
「What?」
「アンタ空港に行こうとしてたんじゃないの?」
「お構いなく、ただぶらぶらしていただけだからね。次はどこへ行こうか、迷ってたんだ」


おかしそうに笑う鳥。なんともまあアウトドアなことを言う人間になってしまったことだ。




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