小さい頃のあたしが、涙目になってこっちを見つめている。鈴の音みたいな声で嗚咽して、震える身体は迷子の子供みたいだ。喉にはひりつくよう灼熱の花が咲いていて、今にも枯れてしまいそう、息をするのも辛そうに見える。命の炎は限りなくか弱く、あたしの小さな吐息一つで消えてしまいそうだった。
――生まれてきてごめんなさい。
そう言いながら幼いあたしは肩を抱きしめている。その眼差しは何かを数えているみたいだ。その数は何の数だろうか。掠れる唇で空気を咀嚼しながら、幼いあたしはただただただた――ただただ祈り続ける。

あーあ。
なんか、やだなあ。
あの頃。
神様なんてものに縋って嫌われたと錯覚して、現実逃避してるみたいに喘いでいた、みすぼらしいあたし。
見せ付けられてるみたいで。
厭らしいなあ。

幼いあたしはまるで樹海を浮かびあがるように揺れている。陽炎に近いのかもしれない。壊れそうに儚くて。
…………いや。
壊したくなるくらいに、儚い。
いっそ苦しいなら息を止めてみればいいのにな。
それも。
永遠に。
――神様。
自分でもおっかないくらい物騒なことを考えた矢先。幼いあたしは言葉を滴と共に溢れ出させる。
――なんで騒禍は、こんなに苦しい思いをしているんですか。
世界一の不幸を。
目一杯に精一杯に浴びて。
それでもそれに酔い痴れることなく、病的なくらい真っ直ぐに、その疑問を空にぶつける。

知らないよ。
そんなの。
あたしは神様じゃないし。
ていうか神様なんているのかな。

――これは何かの罰なんですか。

罰って、あたし何したの。
怖いよ。

――なら許してください、許してください。

昔のあたしってこんなんだったんだ薄気味悪いな。
まあ、それだけ。
死にそうだったんだろうけど。

幼いあたしはまたうずくまる。あたしはその姿を見つめている。この弱いあたしの声は、もう響かない。
あたしは彼女の見ていた空を仰いだ。
何もない。
光だとか希望だとか、闇だとか絶望だとか。
そんなものは見当たらない。

あたしは口を開いた。


“ねぇ、神様”


まるで、幼いあたしの代わりに。


“教えてくんないかな”


詰問し、喘ぐように。


“あたしは無差別に無条件に無作為に、誰かを不幸にしてきた。戦争を起こして、血を流させ、命を奪わせ、骨さえ燃やさせた。争いが起きるなら何がどうでもなんでもよかった。あたしはあたしの為に、酷いことをいっぱいしてやった――おかげであたしは幸せに浸れたわけだけど。でもさ、だからって、どうしてこんな惨めなことにならなきゃいけなかったの。あたしはなんで世界一不幸にならなきゃいけなかったのかな。なんでみすぼらしいこと言わなきゃいけなかったのかな。なんで、あたしが。……答えてよ”


今まで隠れていたような何かが不気味に笑う。
いや。
笑ってさえ、いない。
ただひたすらに淡白で。
そして痛々しいくらいの言葉を、あたしに突き付けてくる。



――別に誰でもよかった――。


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