デッドリーストライクに浸かり、あたしは膝を抱えたまま水槽の底に座りこんでいた。
キラキラとチカチカと。
ラメが入ってるみたいに光る、宵闇色の液体。
そのくせ果てしなく透き通っていて、視界は酷くクリアだ。
あたしは飛行機の羽みたいに腕を横に翳してみた。水の流れはゆたりと変わり、泡を立てながら何事もなかったかのように戻る。
翳した腕を見つめる。
細っこくて脆そうで。
そして、病的に白い。
誘くんはなんて言って褒めてくれたんだっけな…………。
確か。
“君の肌は虹みたいだね”
アホみたいなこと言ってた。
“ダイヤモンドの下で、純白の炎が揺らめいているみたいだ”
んなわけあるか。
第一。
あたしのこの白さは明らかな日照不足によるものだ。健康的なそれとは違う。なんていうか、おっかなくて不気味。幽霊だとかの類。無機質な彫像なんかに匹敵する。おまけに肉がない。あまりにも貧相で、見てると痛々しくなるような不健全な白さ。誰も羨ましがりはしないだろう。
翳した腕を下ろして、にぎにぎと手を伸縮させてみせる。
そしてぼこぼこ泡を吐きながら水上を見上げる。薄橙の証明がゆらゆら揺れて映っていた。
あーあ。
あたし死ぬんだ。
どうしよっかな。
まだ、夢、叶えてないんだけど。
何かを成し遂げるには人生は余りにも短すぎる、って――誰が言ってたんだっけな。
なんかそいつをはったおしたい気分だ。
まあ。
あたしの腕が、折れなかったらの話だけど。
どこまで弱ってんだろ。
また血吐いたりすんのはやだし…………ひりつくみたいな喉の痛みだって、かなりうざったい。
あたしが。
強かったらいいのに。
無差別な強さを持っていたらどんなに素晴らしいだろう。
自分の無力さに、自分の非力さに苦虫をすり潰したような顔をしなくてすむほどの力があったなら、どれほど素敵なことだろう。
叶わない望みであり。
敵わないものだけど。
世界一弱いあたしが、世界一強かったらいいのに。
そう。
正しく。
へーくんみたいに。
脳はシャットダウンするように、あたしを意識の闇へ落としていった。
*****
「待ちやがれぇぇえぇえッ! 戦争谷騒禍ぁぁあぁッ!」
誰が待つか顔面イソギンチャク。
規則通りの長さより親指分ほど短いだけのチェックのプリーツスカートをはためかせながら、あたしは校内を縦横無尽に逃げ回っていた。
我が尺取り虫高校は、名前から漂うなんとも言えない脱力感とは裏腹な、学区内断トツで荒れている不良高校だ。
ラヴィは最後の最後までここへ進学することを拒んでいたが、なんとか説き伏せて入学することが出来た。
行き帰りの、車通学を条件に。
過保護なんだからなあ。もう。
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