「――――左手の骨、あらかた砕けてるな」


《カンパニー》から舞い戻った先生は、あたしの腕を壊れ物みたく扱い検診してくれた。

壊れ物みたくって。
我ながら笑えないよね。
割れながら、の間違いかな。
あはははははっ!

あたしがドアをノックしたあとで良かった。三月が異変に気づいてうずくまるあたしを見つけてくれた。そのまま携帯の受話器を拾って、誘くんにことの状況を説明、傍にいた先生にまた来てもらうことが出来た。流石にカンパニーからここまでじゃ、すぐに、とはいかなかったけど。誘くんも来たがってたっぽいけど、オーナー無しじや会社は回らない。それぐらい自覚して欲しいよね、ほんと。
念のため三月には隠れておいてもらった。すぐにラヴィが部屋に来たし。先生も来るし。ただあのとき、あたしを見つめたなんとも言えない瞳が、小骨のように引っ掛かっていた。


「お前、本当にノックしただけなのか?」
「うん」
「ノックしただけで、骨が粉砕したのか?」
「うん」


先生は顔をしかめた。
ああ。
なんかやだな。
先生が顔をしかめたときの顔、獰猛なライオンみたいに見えてくんだもん。頭を噛みちぎられそう。
ラヴィも真剣な眼差しであたしを見つめてくる。そして「お嬢様」と呟いた。


「やはり貴女の身体は悪化の一途を辿っています。これ以上、危険なことをするのは辞めましょう。ちゃんと安静にしていて下さい」
「えー、やだな」
「お嬢様、今の状況をわかってるんですか?」


あたしは唇を尖らせてそっぽを向いた。


「これではまるで、《あのとき》のままです」


――あたしが世界一不幸だった頃のまま。
歩くだけで骨は折れて。
寝転んだだけで砕けて。
全身を繋ぐ強い芯が、あらかた破壊されたときの――。


「デッドリーストライクを張れ」


先生はラヴィに言った。


「今回は念のため十時間だ、濃度はいつもより高めで。むしろ割るな。ストレートでも良いかもしれない。いつもの水槽に張れ。満タンでな」
「了解しました」


あたしは目を見開く。しかしその間に先生は、あたしの片手の処置をしていた。ラヴィは耳元で「どうかお願いします」と熱い吐息混じりに念押ししてきた。空色の瞳とかちあったとき、なんとも言えない感情がとぐろを巻く。ラヴィが部屋から出たあと、あたしは顔を俯かせた。


「辞めてよ先生」
「何がだ」
「高々ノックして骨が砕けた程度じゃない、別にデッドリーストライクに浸からなくたって」
「駄目だ」


先生は険しく言う。


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