「そうね……例えば。“飲む人”なんて滅多に使われないでしょうけれど、もし存在するなら“ドリンカー”になるのか“ドリンキスト”になるのか、だとか。……そういうのを考えることは素敵でなくて?」
「なるほど、お前は生産性を語っているわけだな」
「そんな言い方をされると品が無く聞こえるのだから不思議なものね。まあ大体はそういうことよ」


とは言え、それがどうしたとしか思えないのは、不思議ではあるまい。
よくもまあ、中身のないことをとうとうと、恥ずかしげもなく喋り立てれるものだ。
着眼点に機微たる洗練が感じられるのがやけに小憎たらしい。もし硝子の問いが「なんで海って青いのー?」だとしたら「知らないわーん」と返したに違いない。………………違いあるかも。


「昔誰かが“I love you”を“月が綺麗”と訳していたわ」
「そんなんで“私はあなたが好きです”が伝わるか?」
「萵苣、貴方といると、月がとても綺麗だわ」
「…………なるほど、俺が悪かった」


うふふ、と硝子は笑う。
やり切れない思いに顔が少し熱くなった。


「あとは…………よく聞くものをあげるなら、“一緒に墓に入らないか”だとか」
「ああ、なるほど」
「ユニークに切り込みましょう。――“我が腕の中で朽ち果てるがいい”!」
「脅迫かよ。ユニークが過ぎるぞそれ、しかも妙にイケメンだな」
「ふふふふっ。では、萵苣。貴方の言う、生産性、あたしの言う、楽しいお話をしましょう」


硝子は俺に向き直った。
そして悪戯っぽく手を重ねる。


「貴方は“I love you”を、一体なんと訳すのかしら。シンキングタイーム」
「…………、……わからん」
「つまらないわよ? 萵苣」
「……じゃあ硝子、お前ならどう訳す?」
「“愛して下さい”」


なるほど。
男ならみんな卒倒しそうだ。


「あたしの育ての母は“貴方を見つめる”と訳していたわよ」
「ふぅん…………」


俺の反応の鈍さに気を悪くした風も無く、硝子は髪を弄った。


「それでも、素敵よね。“月が綺麗”も、“貴方を見つめる”も。もしあたしが世界の誰かにそんなたおやかな感情を抱いて貰えたなら、それはきっと、胸を張って誇れるくらい、素晴らしいことなんでしょうね」
「お前は美化と肥大化が好きだよなあ」
「美化も肥大化もした覚えはないわよ、萵苣」


そう言うと、硝子は瞼を伏せた。
長い睫毛が仄かな影を落とす。
びっくりだよな。
都市伝説とかじゃなかったんだ。
目ェつぶっても綺麗な奴。


「“I love you”を、気高いあたしの育て母親は、“貴方を見つめる”と訳していたわ――――――――ではね、萵苣」


声のトーンを、落とした。



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