さる極寒の北の国にある、断崖絶壁の孤島。
そこに、壮大に聳え立つ《カンパニー》のロビーに、けたたましい音が鳴り響いていた。

ジリリリリリ!
ジリリリリリ!


「はいは〜い、ちょおっと待ってね〜」


飄々と言うには余りにも気の抜けすぎた男の声が、その音に呼応するように上がる。甘みのある掠れたテノールだった。
世界一幸せそうなのではと錯覚してしまうほどの、ニコニコと柔らかい笑みを浮かべている白皙の若い青年で、全体的にゆるい身嗜みで、厚手のカーディガンを袖を結んで肩から提げている。腰からは尻尾のように黒いコンセントとケーブルが伸びていた。蜂蜜色の頭髪の上には、上品な黒電話が乗っている。
先程からの音の正体だ。

白皙の青年は、ひょいと、頭の上で鳴る電話の受話器を取った。


「は〜い。お待たせしました〜、音無無音(おとなし・むおん)です〜」
『…………はあ?』
「うわ〜、間違っちゃった! ごめんなさい。こちら〜、《カンパニー》で〜す」
『………………。医者の砂場砂地だ。誘の野郎に変わってくれ』
「えぇええぇ〜」
『何が“えぇええぇ〜”なんだ何が』
「失礼ですが砂場さ〜ん。正気ですか〜?」
『お前が正気か』
「いくらうちのオーナーが女顔の美形だからって、ラブコールを男にするなんて〜」
『音無とやら、お前解雇されるべきじゃねえのか?』
「僕もそう思うよ。ごめんね、砂場先生」


いきなり声が変わった。
音無無音とは違った柔らかさのある青年の声だった。
声の主、誘誘は、電話を取り上げた相手である音無無音に苦笑しながら、通話を続ける。


「今までは電話番もキューテンキューにやらせてたんだけど、流石に彼に重労働が過ぎるからね」
「全くですよ」


苛立ったような声で、誘誘の背後にいた青年、キューテンキューがぼやいた。そのまま音無無音を見遣って「貴方も受付係ならもっとしっかりして下さい」と叱る。音無無音はへらへらと気の抜ける笑顔で「ごめんなさい」と返した。


「至らないところも多々あるだろうけど、素直ないい子だから、許してあげて欲しいな」
『素直でアレってことは相当なアホだぞ。……まあいーわ。お前に免じて許してやる』
「えへへ……ありがとう、砂場先生。砂場先生は優しいな。優しい人は大好きだよ」
「ラブコールでしょ〜? めろきゅんなラブコールでしょ〜?」
「うるさい」


茶化す音無無音に、キューテンキューは頭を殴った。音無無音はうるうると目を潤ませた。


「それより、なんの用かな?」
『あー。今空港着いたとこなんだよな。だからそっち着くの遅れそうだわ。だから連絡に』
「ああ。全然気にしなくてよかったのに。わざわざありがとうね、砂場先生」


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