――“才知畑”とは。
知る人ぞ知る学問研究機関。
正式名称、《エデン》。
文学、言語学、考古学、幾何学、機械工学、分子力学、物理学、記号論理学、生物学、天文学、帝王学、心理学、化学、医学……後ろに“学”のつくもの全てを収束し統括した、驚異の学術開拓機関だ。
各々の分野における優秀な人材を生み出し育てる為の施設であり、そこで与えられる名前が全て野菜や果物を擬えていることから――“才知畑”と、“畑仲間”の連中は呼んでいた。しかしそれはいつの間にやら正式名称である“エデン”よりも先行して、世へと知れ渡る今日となっているようだった。
「学問研究機関……」
「そ。俗に言う、天才ってやつを育てる……いや、“栽培”するとこだな」
「そんなとこに、」
「うん」俺は頷いた。「俺、いたんだな。コレが」
機械工学専だけど。
俺の愛車であるレタス号三世も才知畑にいた時代に作ったものだ。
レタス号三世は、俺の人生においての大傑作である。
「つっても。*+αで永世トップなんて言われてた魚なんかと比べちゃあ、月とスッポンな落ちこぼれ野郎だったけどな」
「天才育てるような機関なのに? 落ちこぼれなんて出ちゃうもんなの?」
「天才育てる機関だって天才ばっかじゃないだろ。ついてけない人間だって出てくる。ほら……学校でもクラスに一人くらいはいんだろ? 一年中ダルそうに授業受けてる落ちこぼれが」
「俺知らないし」
「魚は、まず学校に行ったことがねーもんなあ……」
「愛ちゃんもあんまり行かなかったかなあ」
「あたしもわかんねえ」
「俺もよ」
まともに学び舎生活を送っていたのが硝子だけってどういう冗談なんだ。
「それにしてもだね。そんなアタマ良さそうなとこが、人を殺そうとするだなんて……」
そう。
俺の追っ手は、その“才知畑”なのだ。
才知畑。
《エデン》――――俺は、そこから逃げ出してきた。
「萵苣の追っ手がその才知畑ってとこなんだよね?」
「ああ。捕まったら多分っつーか絶対殺される。……そこのフルボトル姉妹を寄越してきたくらいだしな」
二人の左右対称の色をした瞳が無邪気にも瞬かれた。
じっと見つめていたら、急に気づいたようにハッとした顔をして、何故か変顔された。
睨めっこじゃねえよ。
俺は肩を落とす。
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