だからあたしはその“メラニン”とやらを多く摂取したら茶色くなるのかと、やたらメレンゲとニンジンを食べたがった。勿論効果は得られなかった。メレンゲはドクターストップかかってたし。



「…………具合はどう?」



次に目を覚ましたとき、あたしは水の中にいた。
やけにピカピカと光っている。
夜空のようにも見える。
薄い青色の水に紫のラメのようなものがキラキラと視界を埋め尽くし、遠くの方を見るとぼおっと黄色くなっていくのだ。

変なの。

変なの、と思った。しかも水の中なのに息ができる。むしろ、さっきまでの状態のほうが苦しいくらいだった。傷が癒えていく感覚。妙な幸福感が身体に行き渡っていた。

この水を張ってあたしを投げ込んだ場所は、大きな水槽だった。水槽の外では看護師や数人の医者があたしの方を見つめていた。


「騒禍ちゃん、どう?」


また、問い掛けが沸いた。
あたしは髪を揺らして彼等に向き直った。

“苦しくないです”

がぼがぼと泡を吐きながらそう言うと、彼等は顔を綻ばせた。そうかそうか、と次々に肩を下ろしていく。

あたしはというと、その様を見てあまりいい気はしなかった。
だって。
自分は素ッ裸にされてこんなピカピカした気持ち悪い液体にぶちこまれて、いくら苦しくないとは言えわかってしまったのだ。
それは、昔からわかっていたのだけど。
随分と前に悟った、代わり映えない事実なのだけど。

それでも。
確定した。

あたしは、この中に入れば吐かなくてすむんだ。
血を流さなくて済むんだ。
注射を打たなくていいんだ。
おかしな食べ物を食べなくていいんだ。
骨をたっくさん折らなくていいんだ。
臓器を腐らせなくてもいいんだ。
悲しまなくても。
苦しまなくても。

あたしは生きていけるんだ。


“………なんだ”


生きて、いける?
永遠にここから出られないことを生きていくと言えるのか。
水槽の外の酸素を肺に入れないことを生きていくと言えるのか。
お日様の健やかな光を浴びないことを生きていくと言えるのか。


“……は…………なんだ……”


あたしは、もしかしたらその時涙を流していたのかも知れない。
痛み以外で泣いたのは初めてだった。苦しみ以外で泣いたのは初めてだった。
いや。
痛かった。苦しかった。
これ以上ないくらいに。



“神様は、騒禍が嫌いなんだ”



――――心が。



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