「あははははっ! 久しぶりだねラヴィ。相変わらずカッタいな」
「お元気そうで何よりです、騒禍お嬢様。荷物をお預かりいたしますね」
「ありがと」


ここまでがらごろと健気にも引いてきた小型のキャリーバッグをラヴィに引き渡した。

ラヴィ。
ラヴィンロード・ブレイク。
うちの一切を切り盛りしてくれているハウスキーパーの男だ。
色素の薄い髪を一つに縛り、空色の目を持った彼。気は利くし料理は美味しいし、おまけに闘えるときている。あたしの両親にしては中々イイ人間を雇ったものだ。しかし。正直な話、年齢がよくわからない。あたしが小さい頃からここにいるのだが、そのときから全く容姿が変わっていない。
化け物かってくらい。
少なくともあたしと十歳くらいは歳が離れている筈なのに。


「お父さんとお母さんは?」
「仕事です」
「そう。まあいいや。今日帰ってきたのは定期検診のためだし」


おやおや、と。
ラヴィは苦笑した。


「定期検診ごとだけでなく、いつでも帰ってこられればよろしいのに。この屋敷はお嬢様の家なんですから」
「やー…………だってめんどくさいし。することないし。外の方が楽しいもん」


喧嘩誘発屋を営む私だが、正直仕事自体はどこででもできる。“戦争を起こさせる”とは言ってもやることは地味なのだ。電話をかけたり、嘘の情報をばらまいたり、お金を渡したり。そんなちょまちょました作業が火種となって、一個の戦争が産まれる。
だから、別に家で作業をする分にはあまり支障は無いのだけど。

でも。

あたしは家の人間に、喧嘩誘発屋のことを話していない。万が一にでも仕事していたときにバレたりしたら、とんでもないことになるのだ。
家の人間にとってあたしは、“世界一不幸だった娘”なのだから。

そんな理由を抱えるあたしとしては、あまり家に帰らないのがベストだった。


「先生、いつ来るって?」
「三時です」
「あと三十分か。……ならそれまで部屋にいるよ。一応言っとくけど、」
「入らないで、……でございましょう?」


承知しております、とラヴィは微笑んだ。あたしは頷いて階段を上る。

懐かしい気分。
懐かしい匂い。
壁に掛けられた有象無象の絵も、置かれた無駄に高級そうな壺も、何を思って作られたんだかさっぱりわかんないくらい豪奢なシャンデリアも。
何も変わらない。
間違いなくあたしの家だった。


「ふう」


階段を上り終えたとき、あたしの息は若干あがっていた。数秒立ち止まり、息を整える。
バーのドアノブを押し、部屋に入った。


「…………あはははっ」


ベッドのシーツもピッシリと整えられてる。
壁に貼ってある写真には埃一つ被ってない。
本棚の窓ガラスさえ反射するほど磨かれて。
あたしの帰りを待っていたかのような雰囲気に純粋に顔が綻んだ。


…………気がしたら綻んではなかった。まあ、あたし、そんなことで喜ぶほど乙女ちゃんじゃないしなあ。
失敬失敬。

帽子を椅子の背もたれに掛けてあたしは窓を開けた。



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