ブリキの心臓 | ナノ

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「ん?」
「あっ」
「よう、久しぶりだな、アイジー」
「……いきなりね、テオ、我がシフォンドハーゲン邸にどういったご用件かしら。勝手に入ってきて、まるで泥棒みたいよ」
「こんな堂々とした泥棒がいるかよ。相変わらずお前、俺が嫌いだな」
「私今日貴方が来るなんて聞いてないわ。押しかけてきた相手を訝しむのは当然でしょう?」
「なにか急用があるとかまずそっちを疑え。まあ、俺は急用じゃないけど」
「だったらなに? そこなクリスタル像を一つあげるから泥棒さんはとっととお帰んなさいな」
「いるか。ていうか、それオーザ=シフォンドハーゲンのコレクションじゃねーの?」
「お母様が気に入らないのよ。玄関ホールにこんなキラキラしたものを置くなって。お母様が不機嫌だと空気がギクシャクしてしまって、嫌になるわ」
「アイジーはお母様のご機嫌取りってわけね」
「お母様はあれで結構繊細なのよ。私までお父様に味方してしまったらお母様がお可哀相だわ!」
「つまりエイは父親側ってことか。あいつこういう派手なの嫌いじゃなかったっけ?」
「勿論苦手よ。でもエイーゼはどちらかと言えばお父様に育てられたという思いが大きいの。お父様はエイーゼを猫可愛がりしていらしたから。お父様に丸め込まれたのよ」
「なるほど」
「それで、テオ。今日はどういったご用件なのかしら。私は今こう見えて忙しいのよ」
「おーや、アイジー。まさか、今日の俺のお目当てがお前さんだとでも思ってるのか? 可愛い勘違いだ」
「とっとと私に伝えて立ち去れって言ってるのよ」
「やっぱり可愛くないやつ。今のほうが好きだけど、前のびくびくしてたほうが好ましかったな」
「あーら。以前私を凄い形相で睨んでいたのはどこのどなたかしら」
「きっと長身痩躯なハンサム野郎に違いない」
「そうね、それできっと悪人面に違いないわ」
「なんだと」
「むぐっ」
「お望み通り用件を言ってやる。エイを出せ」
「むぐ、ぐー、うーっ、あぎょをひゃにゃしてよ!」
「ああ、悪いな」
「ぷはっ! 貴方って本当に乱暴なんだから! 何故貴方みたいな人とエイーゼみたいな紳士が友達でいられるのかがわからないわ。世界七不思議の一つよ」
「俺はエイみたいな真面目なやつの双子の妹がアイジーみたいな破天荒な人間であることが永遠の謎だよ」
「エイーゼは今どこにもいないわ」
「はあ?」
「辞めて、睨まないで、怖い」
「真面目に怖がるな。で、エイがいないってどういうことだよ。今日一緒に宿題やるって約束したのに」
「………………」
「おい、どうした、アイジー」
「…………そんな約束、したの?」
「あ? ああ」
「酷いわ」
「は?」
「エイーゼったら、かくれんぼする前はそんなこと一言も言ってなかったじゃない! あんまりだわ! 私を騙してたのね!」
「なに、お前らその歳にもなってかくれんぼしてたの? それでどこにもいないってわけか?」
「最近は一緒にいられる時間がなかったから……今日くらいはって甘えてみたのよ」
「いい加減兄離れしろよ」
「エイーゼ……今日は私をお姫様にしてくれるって言ったのに!」
「前言撤回。あいつの責任だ。前々から、エイになにを言われて育ったらこーんなブラコンになるんだと思ってたら。お前たちは異常だ」
「別に異常じゃないわ。双子の兄妹なのよ?」
「枠を超えてるわ。そのうちお前らが結婚しださないか心配だよ」
「うーん、そうね、昔はエイーゼと結婚するんだって息巻いてたわ。懐かしい思い出ね」
「今でも十分結婚しそうだけど」
「そうかしら」
「お前エイに恋人が出来たらどうするんだよ。そんなにべったりで」
「あら、いやだわ。エイーゼに恋人なんて。もしそんな女の子がいたとしたら私、その子のこと世界一恨むわ」
「こえーよ」
「だって、エイーゼを一人占めできなくなるんでしょう? 私を撫でる手で誰かを抱きしめたりするのよ。そんなの嫌!」
「そんなにべったりで粘着剤の無駄遣いでもしてるのか?」
「べったりじゃないわ。精々ぎゅってしたりするくらいよ」
「いくら兄妹だからって、貞操観念を持てよ。ったく、俺から有り難いお言葉を引き出せるのはお前くらいのものさ」
「私とエイーゼの仲を引き裂く悪い人がなにを言うの」
「お前がなに言ってんだ」
「とにかく、手分けしてエイーゼを探しましょう。見つけだしてわけを聞き出さなきゃ!」
「俺も手伝うのかよ」
「当然でしょ?」
「まあいいけど……で、どのあたりまで探し終えたんだ?」
「まず部屋にはいなかったわ……私の部屋も勿論。一階は大体探し終わったかしら?」
「でもこれだけ広いと探すのは大変だぞ。正直途中で移動してもバレないだろうし」
「いざとなったらチェリーカットを呼ぶわ。さあ、探すのよ。私はこっちをあたってみるから、貴方はあっちをお願い!」
「おー。行ってら」



「…………――――――で? エイ。これはどういうことだよ」
「……テオ、何故僕がここにいるとわかったんだ?」
「クリスタルの屈折の変色がちょっとおかしかったからな。後ろにいるって直感した。アイジーは気づかなかったみたいだけど」
「クリスタル像の話を持ち出されたときはバレたんじゃないかとひやひやした」
「それで、エイ。説明しろ。なんで俺と宿題する筈だったお前がアイジーとかくれんぼなんかしてんだ?」
「……しょうがなかったんだ。アイジーが、寂しそうに、いや、無理矢理僕に、昔みたいに、相変わらず、我が儘で、だって、そうだろう?」
「どうしてお前はアイジーのこととなると、そう途端にもごもごさせるんだろうな。口からガムを吐き出したほうがいいんじゃないか?」
「うるさい。お前にはわからない」
「わかるか。俺がわかることと言ったら、アイジーが関わるとお前はガムを噛まずにはいられないってことくらいだ」
「……仕方ないだろう。アイジーが、あんまり楽しそうに、僕を遊びに誘うものだから」
「お前はアイジーに甘いな」
「そうでもない」
「そうでもあるぞ」
「……大事には、している。今まで冷たくしてしまったから、その分も」
「そういうのを甘いって言うんだよ。で、俺はどうすればいいんだ? 兄妹のラブラブアバンズギャルドをぶち壊した罪でボーレガード家に流刑か?」
「いや、こっちから宿題をしようと誘ったんだ。お前はここにいろ」
「じゃあアイジーはどうするんだよ」
「……………」
「お前も面倒臭いやつだな」
「アイジーは面倒臭いが僕は面倒臭くないだろう」
「十分面倒臭いわ。もういいから、俺も付き合うよ」
「……いいのか?」
「かくれんぼが終わったら宿題、忘れるなよ?」
「ああ……助かる」
「ならいいさ――――おーい!! アイジー!! エイならこっちにいるぞっ!!」
「は!? 何故バラした!?」
「悪いな。俺、今アイジー側の陣営にいるんだ。あと俺もこのクリスタル像はどうかと思う」
「僕に言うな! くそ、場所を変えるしかない!」
「なら俺は着いて行くしかない。実況解説付きでアイジーにお前の居場所を伝える」
「外道の極みだな」
「かくれんぼ如きでムキになるなよ」
「黙れ。このかくれんぼは今夜どっちの部屋で寝るかがかかってるんだ。テオ、わかるか? アイジーの部屋の匂いは僕には甘すぎて落ち着いて眠れないんだぞ」
「今俺はかなりドン引いてるんだかエイ、わかるか?」
「あっ! 足音がする!」
「待て、どこに行く、今の話を詳しく聞かせろ。お前にも俺の有り難いお言葉を聞かせてやる!」
「ちょっと黙ってろテオ! 居場所がバレるだろうが!」
「お前らは本当に兄妹か? 恋人かなにかの間違いじゃないのか」
「そんなわけがないだろう、第一、」

「あいつに恋人が出来るなんて僕は許さない」





理不尽な愛情



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