ブリキの心臓 | ナノ

1


「ねえ、エイーゼ」
「どうしたんだアイジー、こんな真夜中に」
「一人じゃ眠れないのよ、一緒に寝ましょう?」
「ふざけるな……僕たち今何歳だと思ってるんだ」
「十五歳よ。この前誕生日を迎えたじゃない、もう忘れたの? もしかして馬鹿なの?」
「それは自分に言ってるのか? 十五歳にもなって一緒のベッドで寝るだなんて、恥を知れ」
「約束したじゃない。八年前の続きをしようって。確かあの日は一緒に寝るって約束だったと思うの。あのあとすぐに私たち決裂してしまったからオジャンになったのだけどね」
「そういえばそうだったな」
「あら。貴方もちゃーんと覚えていたのね、エイーゼ! 嬉しいわ! ということで一緒に寝ましょう」
「ということ、ってどういうことなんだ」
「ほら、私枕も持ってきたのよ。あとは貴方がベッドに入れてくれるだけでいいの」
「よくない」
「そういえばエイーゼ、ずっと前から気になっていたんだけど、貴方ってパジャマまで真っ黒なのね。なんでそんなに黒に拘るのかしら。見てるだけで陰鬱な気分になるわ」
「……………」
「あら、どうしたのエイーゼ」
「お前が言ったんだぞ」
「え?」
「お前が僕に、黒が似合うと言ったんだ」
「……………」
「……………」
「……ぷふっ」
「何故笑った!」
「ぷ、ふふ、あは、ふふふふっ、だって、エイーゼったら……! うふふふっ、まさか、そんな理由でずっと、黒を……! この冷戦中もずっと! ぷっ! おかし、あははははっ!!」
「笑うな、うるさい、もう寝かせてやらないからな」
「ああ、ごめんなさい。でもエイーゼったら可愛いんだもの。まさか八年も律儀に黒を着続けてくれるなんて」
「馬鹿にしてるだろう」
「感謝してるのよ」
「……………」
「ありがとう、エイーゼ」
「礼をされるようなことはしてない。着たかったから着てたんだ」
「私が似合うって言ったのを着たかったのね」
「ああ、そうだ馬鹿。ほら寝るぞ」
「むぐっ! ちょっとエイーゼ、乱暴なのよ、いきなり押さえなくたっていいじゃない!」
「僕は早く眠りたいんだ」
「私だって眠りたいわ」
「だったら寝るぞ」
「ええ、ええ、寝ましょうったら。おやすみ、エイーゼ」
「おやすみアイジー」


 ふとしたぬくもりがアイジーの額を掠めた。


「……………」
「……………」
「……今のはなに」
「おい、うるさいぞ、ちっとも寝れないだろうが」
「いえ、そうではなくて、ねぇエイーゼ」
「あー、もう、寝ろ寝ろ。僕は眠りたいんだ。さっきも言っただろうが」
「勿論わかってるわ、でも、あの、さっき、貴方私にキ」「ほら、寝るぞアイジー。いい加減にしないとお父様やお母様まで起きるだろう」
「……わかったわ」
「おやすみアイジー」
「おやすみエイーゼ」


「……――ちなみにさっきのも八年前の続きかしら」
「だから早く寝ろ、アイジー」





片割れの夢



× | ×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -