ブリキの心臓 | ナノ

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「はははっ、見たか相棒、さっきのアイジーお嬢様の顔!」
「今にも泣きそうって感じだったよな、プププ」
「ちょっと構ってやっただけであんなになるんだもん、おかしいったらないよ」
「お前って本当に最低だな、ギーガ」
「お前もだよニヴィール」
「でも一番最低なのはあのくそったれのお嬢様だけどな」
「なにがアイジー=シフォンドハーゲンだよ、石頭の貴族様め!」
「お高くとまって嫌なやつだよな」
「貴方たちに興味ありませんの、みたいな?」
「ムカつく」
「死ねばいい」
「でも正直いつか死ぬだろ、《ジャバウォックの呪い》なんだから」
「あー、あの噂か」
「ざまあみろってんだよ」
「死ぬのが怖くて毎日ここに来てるんだろう?」
「笑える」
「同感」
「相棒、俺はあいつの悪口なら一日かけて言える気がするぞ」
「ハルカッタンジョーク集に逐一おさめなきゃな」
「馬鹿みたいに分厚いのが出来上がるだろうよ」
「こりゃあ傑作だ!」
「笑いが止まらないよ。まず俺って色素の薄い女の子嫌いだしな」
「あー、お前ってブルネットが好きだったもんな」
「ブルネットじゃない、もっとこう、黒髪、みたいな」
「わかんないって」
「だよなあ」
「じゃあさ、ニヴィール。もしあのお嬢様がお前のだーいすきなブルネットだったらどうする?」
「どうもしない、今と同じことをするさ」
「だと思った」
「ならギーガ、お前はどうだ? もしあのお嬢様がお前好みの眠たげな笑い方をする可愛い女の子だったら?」
「そうするよ、ニヴィールとおんなじことをね」
「よく言ったぞ大親友」
「なにをしてもシフォンフォハーゲンが憎くてたまらないんだ、そんなことじゃ揺らがないよ」
「ああ、憎いな、あのアイジー=シフォンドハーゲンも。でもな、おっかないことを言うとだな」
「なんだよ」
「もしのもしも、かなりもしもで、奇跡か千年に一度か、そんなありえないもしものことでだけど。もしもあのお嬢様が俺たちの思っているような女の子じゃなかったとしたらどうする?」
「おっかないな」
「おっかないぜ」
「ぞっとするよ。あのお嬢様は俺たちの思っているような女の子でいいんだ。高飛車で厭味ったらしで業突く張りで碌でなしで高慢ちきで意地が悪くて、誰からも嫌われて当然のような、そんな最低最悪の、お嬢様でいい」
「むしろそうでないと困る」
「その通り」
「ぞっとする」
「重ねてその通り。まあもしそんな女の子だったとしても相変わらず大嫌いだろうけど」
「だろうな。友達なんかになりたくもないね!」
「好きにもなれないしずっと大嫌いだし友達なんかごめんだけど」
「「まあ、そうだな、」」

仲良しくらいになら、なってやってもいいや。





厄介の美学



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