ブリキの心臓 | ナノ

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「私のパイを食べたのは誰だ」
「さあ」
「なんのことやら」
「とぼけるな、キーナ、ルビニエル。私が退出している間に二人が部屋に入ったという第三者の証言だって存在するんだぞ」
「その証言があったからとはいえ、そこの下衆はともかく私が犯人であるなどという証拠はどこにもありません」
「なぁンて言う人が犯人だったりする世の中じゃないデスか? メイリア=バクギガン、犯人はこの女ですヨォ」
「真実罪のない人間は他人に罪を着せることなどまず有り得ません、メイリア、この男が犯人です」
「ええい、やかましい! 第一二人は鏡の呪いで犯人がわかるだろうにそれを隠している時点で怪しいんだ……まさか二人とも犯人か?」
「この私がこのような浅はか極まりない男とともに食事をしたとでも言いたいのですか!?」
「バクギガン、いくら研究を共にした麗しき友人デある君とはイエ、それは侮辱ですヨ……」
「「こんなのと一緒にしないでください」」
「なんですって」「なんですか」
「どっちもどっちのくせに喧嘩するなよ。お前たちは本当に仲が悪いな……まあ普段に比べれば今はまだマシなほうか?」
「やい、虱よりも役立たず」
「舌だけでなく顔も二枚目があればよかったでしょうに」
「だから、よくわからない喧嘩をするんじゃない! いつも私が仲裁するはめになるんだ、いい加減にしてほしいよ」
「ところでバクギガン、話が逸れていまセンかネェ?」
「あ、そうだった」
「おやオヤァ? 大好きな親友のお困り事なのに過った進路の修正もしないナンて、やっぱり貴女が犯人で見破られるのをビクビク怯えてるンじゃナイんですかー?」
「そうやって流れの主導権を得て無実の罪を着せる貴方はさぞ立派な人間なんでしょうね。反り返った胸元にパイの食べかすなんかが着いたりしているのでは?」
「その達者な口、塞がれたいんですカァ?」
「お前たちが塞がれたいのか。私のスキルの実験に付き合わせるぞ」
「話を戻しましょう……そもそもメイリア、貴女は何故ここにパイを持ってきたのですか」
「おやつだ」
「ガキじゃナイですか」
「黙りなさい。ではメイリア、それを研究室から出ている間に何者かに食べられた、というのが貴女の言い分ですね」
「そうだ」
「貴女の口元についてる食べカスはなんでしょう」
「……………」
「……………」緊張感のある速度で口元をざらりと撫でた。「違うぞ、これは朝食べたトーストだ」
「トーストねぇ」
「そ、そう言うルビニエル、お前いつもは薬品臭いのに、なんだか今日は甘い匂いがするぞ」
「……………」
「……………」手首や襟元をくんくんと嗅ぐ。「ヤだなあ、違いますヨォ……これはテリアカに入れた蜂蜜の匂いデスってば」
「やはりお前が犯人なんだな、ヴァイアス=ルビニエル!」
「待ってくだサイ。濡れ衣です」
「なにが濡れ衣ですか、よく嗅いでみれば……ほら、林檎と生クリームの匂いがしますよ?」
「おや、ミス・ペレトワレ。どうして貴女は、ただのパイとしか言ってイナいものを、生クリームの添えらレたアップルパイだとオわかりになったンです?」
「……………」
「……………」さっと髪を払って首をゆるゆると振った。「これこそ濡れ衣でしょう。私は鏡の呪いに憑かれた人間です、それくらい知っていてなんだと言いましょう」
「……………」
「……………」
「……………」
「もう誰も信用出来ない」
「こっちの台詞デスよー」
「一体誰が犯人なのです」





女王のパイを食べたのは誰



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