ブリキの心臓 | ナノ

1


「ちょっと聞いてくれクイーン」
(頭が高い)
「なら低くするから。座るから。聞いてくれクイーン。困ってるんだ」
(なるほど、それで私に泣き縋っているのか、ならば仕方がないな。我が相棒メイリアよ……私が助けてやらんこともない)
「泣き縋ってはないが感謝しよう。大変なんだ。ついさっきルビニエルが」
(パス)
「は?」
(私はあのような不気味で軽薄な小僧の話は好きではない。メイリア、お前には悪いが流石にお前の誤った色恋にはなにも言ってやれない)
「色恋じゃない、ハートはなにも関係ない」
(頭が高い)
「貴女は私に寝転べと言いたいのか」
(色恋ではないなら何用だ、あの男が一体どうした)
「ああ、ルビニエルがついさっきキーナに……」
(愛の言葉でも囁いたか)
「それが本当ならきっと今日が世界の終わりだろうな」
(なに、違うのか)
「違うよ。クイーンはすぐそういう色恋に持って行きたがる」
(ハートの女王だからな)
「由来はそこからだったのか?」
(頭が高い)
「そろそろ私は床にめりこむ。さて、話を元に戻すが、ルビニエルがさっきキーナと揉めていたのだ」
(胸をか?)
「クイーン?」
(すまん、ふざけすぎた)
「……とにかく揉めていたんだ、断じて胸じゃない」
(オーケイ、揉めたのは胸じゃない)
「その通り。かなり口論が激化してきて、私でも纏めきれないほどにまで発展した」
(ああ、さっきのアレか)
「最初の段階で気づいてほしかった。いつも私の傍にいるのに何故わからないんだ」
(図に乗るな)
「手厳しい」
(確かにあの口論は白熱していたな。いつも落ち着いているあの女にしてはかなり頭に血が上っていたようにも思う)
「だろうとも。あの二人の気の合わなさは異常だ。私たちが新期生だったときからな」
(して、その二人の口論がどうした)
「そうだ、話の続きだった」
(頭が高い)
「貴女は私に地獄に落ちろとでも言いたいのか」
(頭が低い、頭が低い、頭が低い)
「やっと椅子に戻れた」
(で、だ)
「で、さ。その二人の口論が激化した果てにアリスとアルフェッカが出張ってきたのも見ているだろう?」
(ああ、あの白うさぎのような目をした双子の小娘共か)
「あの護衛官をそんなふうに言い放てる猛者はクイーンだけだろうな」
(どうせ私の声はあの小娘共には聞こえん。言った者勝ちだ)
「護衛官二人が出張ってきたことにより流石にキーナもルビニエルも落ち着いた。厳重注意で済むかと思いきや、二人のせいで《オズ》の紋章入りの垂れ幕が少し破れてしまっていたことが発覚し、ペナルティーを受けることになった」
(自業自得だな)
「ペナルティーを下す責務を与えられたのは、私らしい」
(……………)
「……………」
(……《オズ》の敷地内を一時間走り回る、とかで良いのではないか?)
「あの体力のない二人にそんな無茶は出来ない」
(なるほど、メイリアお前、同期の仲間にペナルティーを課すのが心苦しいのだな? なにを課せば良いのか考えあぐねているのだな?)
「クイーンならどうする?」
(私ならつべこべ言わせる前に首を撥ねるぞ)
「クイーンに聞いた私が馬鹿だった」
(もうなんでも良いではないか。きっとあの二人も同期であるお前にペナルティーを与えられるなど恥の極みだと感じているに違いないぞ。なにを申し下そうが立派な罰になる)
「おや、クイーンにしてはなかなか的を射たことを言う」
(私とて矢の一本や二本くらい)
「そんなもの持っていたのか」
(メイリアに取られぬように大事に隠していた)
「なら次からは出し惜しみせずに使ってくれ」
(図に乗るな)
「手厳しい」
(それでメイリア、お前はどんな罰をあの二人に課すつもりだ?)
「なるべく体力のいらないものにしてやりたいとは思っている。書架棟の整理だとか」
(あの広さを? お前は悪魔か)
「私のどこに真っ黒い尻尾や角が生えているというんだ」
(ハートに)
「面白くない」
(面目ない)
「まあいいや、ペナルティーを課すのは今でなくてもいいだろう」
(ふむ。ではいつ課すつもりだ?)
「明日には」
(明白だな)
「それよりもなにか紅茶が飲みたい、グレイスのものがいいがあんな高級品が《オズ》にあるかどうか」
(おっ、待てメイリアひらめいたぞ。これ以後お互い喧嘩をしない、なんていうペナルティーはどうだ。あのおすまし顔をしたネズミのような二人が魚の如く目玉が飛び出そうなほど見開く様を想像してみろ、これは愉快なことになるぞ)
「それだ!」
(頭が高い)
「わかった。座る。座るから」





昼下がりに笑う二人



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