ブリキの心臓 | ナノ

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「あのね、シオン」
「なんだよアイジー」
「今とっても愉快なことを思いついたのよ。もしも私がハーナウ校に通っていたら、私はシオンの後輩になっていたのよ」
「有り得ない話だけど面白いね。君みたいな後輩がいたら人生が楽しくって仕方がないだろうよ」
「ふふ……ユルヒェヨンカやブランチェスタとはクラスメイトなの。ああ、ほら、夢のようだわ!」
「まあ、実際に夢だしな。ちなみにブランチェスタは学校に通ってないぜ?」
「嘘でしょ!?」
「大いに本当。大体、学校なんて通ってたら、ブランチェスタの親があんなみっともない格好させるわけないだろ」
「も、盲点だったわ……」
「でも、君が学校、ねえ。友達が出来るのか先輩は心配だな」
「あーら、最近ようやっと人見知りの気が抜けた私にそう言うの? 私、ちゃーんと皆に愛想を振り撒いたり、優しくしたりできるんだからね」
「にしては、シェルハイマーやハルカッタには厳しいじゃないか」
「彼ら相手に愛想よくしたりしたら付け上がられちゃうじゃない。あっちが悪いのよ。二人にはなにをやっても無駄なのよ。優しさなんていくらあっても足りないんだから。いつも皆にお行儀よく、なんてやってられないわ。理由は簡単、もったいないもの」
「手厳しいね。でも、もし本当に君がうちの学校に来たら、実際すぐに人気者になったと思うな。君って美人だから」
「もう、シオンったら……でも、そうね、だったら嬉しいわ。今は全然友達がいないから、空想の中でくらい友達がいっぱいいても罰は当たらないわよ」
「そんなに少ないのかい?」
「もちろんよ!」
「そんな笑顔で言うことじゃないんだけど」
「だって、人生最初に出来た友達が貴方なんだもの、シオン」
「この十五年間君は一体なにをしてきたんだ……」
「その次が、そうね、ユルヒェヨンカだったわ……それから、ブランチェスタ。リジーやスタンも友達かしら? ゼノンズは……違うわ。ジャレッドとテオは、おそらく友達だと思う。それとペンフレンドのリラに……あら、八人もいたのね」
「八人しかいないのか!?」
「なによ、人気者のシオンにはわからないだろうけど、友達を作るってとっても難しいことなのよ?」
「たしかに、君の場合は立場もあるしね。貴族の友達は?」
「三人だけよ。私社交界に入り浸っていたわけではないから……なんというか、おかしな話だけど、“貴族慣れ”してないのよね」
「貴族様が?」
「貴族様がよ。だから、周りの打算的な考え方だとか、神経質なコミュニティーだとか、なにより貴族としての当たり前が欠如してるの。合わないのよ、ああいう空気。みんな話しかけてくれるけど、私はあんまり好きじゃないわ」
「残酷なことを言うね、アイジー。俺は貴族のことをよく知らないわけだけど、それは偏見じゃないかい?」
「だとしたら、とってもおかしなことよね、自分で自分の首を絞めてるんだもの」
「違いない。ところでアイジー、君はさっき、もしハーナウ校に通っていたら、っていうもしも話をしたけど、正直、アイジーがハーナウ校に通っていたら、俺たちは友達になれなかった気がするな」
「あら、どうしてよ」
「別に俺は下級生の層と特別仲がいいわけじゃないんだ。精々、ユルヒェヨンカやアイジー、まあある意味ではブランチェスタ、三人だけなんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。だから、俺は君に話しかけるとは限らないし、君だって俺に話しかけるとは限らない」
「本当……盲点だったわ」
「だろ?」
「案外、今の環境って、とっても巧妙に仕組まれたトリッキーな奇跡だったりするのね」
「そういうこと。貴族の女の子と庶民の俺だもんな、出会えたのはかなーり奇遇だよ。アイジー」
「なにかしら」

「あの日に出会ってくれて、ありがとう」
「こちらこそ、あの日見つけてくれてありがとう」





今のままの一番なこと



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