ブリキの心臓 | ナノ

1


「なあマッカイア」
「なんだよシベラフカ」
「僕達、婚約したわけだけど、やっぱ決めるべきことはちゃんと決めておいたほうがいいと思うんだよ」
「んー? ん、そんなもんか。で、なにから決めんの?」
「まず。これは父親の意志も入ってるんだけど、シベラフカの人間になるんだから、君にも剣を学んでほしい」
「は? 箒振ってればいいの?」
「違うよ。ちゃんとした剣術」
「あたしが?」
「そう。もちろん、完璧に習得する必要はないよ。基礎や作法などを知ってもらいたいだけ。シベラフカに嫁ぐのであれば必須の教養だと言っていた」
「……いいよ、わかった。ちょっと興味あったし、それぐらいなら」
「ありがとう。じゃあ次。君は学校に通うべきだと思う」
「あー……」
「僕の方からベアトリーチェ=マッカイアに掛け合ったっていい。君にだって学校に行く権利はあるだろ。君も馬鹿ってわけじゃないし、今ならまだ間に合う。明日マッカイアにギルフォード校の入学手続き書を送るから」
「却下」
「は?」
「貴族様の学校には行きたくない。周りがみーんな気位の高い方々だなんて絶対やだね。いじめられる」
「僕がいじめなんてさせると思う?」
「もしくは、いじめたくなる」
「じゃあ却下だな」
「ハーナウ校じゃ駄目なわけ? あそこならあたしも行っていい」
「駄目」
「なんで」
「庶民を偏見するわけじゃないけど、流石に婚約者を庶民の学校にいれるわけにはいかないな。一応シベラフカにも世間体があるから」
「ふぅん」
「まあいいや。これについては即断することでもないし、最悪、勉強なら僕が教えてあげれる。次……君、煙突掃除屋の仕事、やめてないんだって?」
「うん」
「部屋も取り戻せたし、家賃も払わずに済むって聞いてたんだけど、なんでまだそんなことやってるんだ?」
「お母様が“もうやるな”って言ったから」
「反抗期の子供かよ」
「いいじゃん、小遣い稼ぎにもなるし。あのお母様は家賃制を無くしても、あたしに金を渡すような人じゃねえからな」
「出るところに出て訴えれば、マッカイアでの君の不遇は処罰されそうなものだけどね」
「そこまでしたいわけじゃない。恨んでるけどな。でも、そういういざこざのせいでマッカイアの名前に傷がついたら、気になるんだろ、貴族様は」
「……じゃあ次」
「まだあるのかよ」
「あるさ。これが結構大事。週に何回いつどこで僕らが会うか、決めるべきだと思う」
「はあ?」
「なに」
「なんで決めるの?」
「婚約者なんだから、定期的に会ったほうがいいだろ?」
「だから、なんで決めるの? たまたま会ったときに話せばそれでいーじゃん」
「《オズ》で?」
「《オズ》で」
「あまりに運任せだ。不発を避けられない」
「そう? あたしはけっこう好きだけどな。今日はあんたに会えるのかなって考えるのも、ばったり会えたときに話す時間も」
「……まあ、うん。いいか、じゃあ」
「次はあたしから」
「おい」
「婚約者だからって婚約者らしいことはしたくない」
「……言ってる意味がわからないんだけど」
「あたし、なんかそういう堅ッ苦しいのやだもん。普通でいい。それこそ、さっき話したみたいに、会えたら会う、話せたら話すでいいんだ」
「今まで通りってこと?」
「あたしは、まあ、置いといて。混乱するだろ? ただの知り合いがいきなり婚約者になっても。無理に時間を作って気まずい思いをする必要なんてないんだ」
「お互いに知らないことが多いからこそ、婚約した相手とは無理に時間を作るべきだと思うけれど……そっか。まあ、君の好きにしたらいいよ。僕は君を縛るつもりはないから」
「ありがとう」
「じゃあ、次、各貴族への挨拶状だけど……これはこっちが勝手にやっとくからそれでいい?」
「むしろ助かる」
「ならよかった。で、最後。僕らの呼び方について」
「呼び方?」
「そう。マッカイア、シベラフカ……苗字で呼び合うのもなんか違うだろ?」
「あー、まあ、なあ、確かに」
「だったら名前呼びしたほうがいいんじゃないかって……ずっと思ってたんだ」
「名前呼び?」
「名前呼び」
「……ジャレッド?」
「ブランチェスタ」
「……………」
「……ごめん、なんかこっちのほうが違う気がしてきた」
「だよな」
「まあ、苗字でもいいか。呼び方なんて些細な問題に過ぎないし。将来になってから考えてもいい話だ」
「じゃあ、これでもういい?」
「いいよ。剣術の稽古と勉強会の時間はこっちで事前に連絡するから」
「わかった。じゃあまたな、ジャレッド」
「また、ブランチェスタ」



「……ごめん、間違えた、シベラフカだ」
「僕もナチュラルに間違えた、悪いなマッカイア」





少年少女はときめかない



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