ブリキの心臓 | ナノ

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「さっきの生物学の授業で先生が言ったことに俺は議論を呈したい」
「出たぞ、テオドルス=ボーレガート様の無茶振り演説が」
「悪いがジャレッド、カーテンを閉めてくれないか。あの馬鹿みたいなトークショーが始まるなんて考えただけでも悪夢だ」
「残念だったなエイ、ここにはそんな邪魔なものはないぞ。で、だ。諸君。さっき先生は俺に質問をしたよな。質問というよりも、所謂授業をサボってそうな生徒に対して“あてる”という行為を、俺に行使した」
「エイーゼ、このラジオどうにかなんないの? アンテナへし折りたいのにどこにも見当たらない」
「僕もそれを十五年間考えていたさ。アンテナどころかボリュームキーまで見当たらないんだからいよいよポンコツ説が浮かび上がってくるぞ」
「ぺちゃくちゃ喚いてないで聞けよ二人とも。俺の腰に銃がぶら下がってたらお前らの頭は今頃蜂の巣だ」
「お前は剣術クラブだろう。何でいきなりカウボーイに転職したんだ」
「剣術ならジャレッドに負けるのが目に見えてる。なんでこいつが剣術クラブに入ってないか知ってるか? 顧問に言われたんだよ、“君が入ると部が壊滅する”って。それだけ強いんだ、シベラフカ家のお坊ちゃまは」
「にしてもなんでいきなりテオドルスが剣術なんて始めたのか、ずっと疑問だったんだけど」
「話を逸らすな」
「そっちが最初に話を逸らしたくせに……」
「授業下手な生物学のあの先生ときたら、珍しく俺が寝ずに授業に受けていたのに、あろうことか俺をあててきやがった」
「起きてる生徒に答えさせるのは普通だろ」
「馬鹿なの?」
「俺はちゃんと質問に答えた、割と簡単な問いだったからな」
「なんやかんやでこの話に付き合わされてるのが解せない。ジャレッド、食堂で軽く紅茶でも飲まないか?」
「シフォンドハーゲンって紅茶はグレイス派じゃなかったっけ?」
「こいつのオモシロオカシイ話を最後まで聞くよりはずっと有意義だ」
「おっと、行かせるか」
「カーディガンを引っ張るな、伸びるだろうが!」
「それで俺が答えたのに対して、あのミスタ・授業下手、なんて返したと思う? “教科書通りだな、五十点”だとよ。五十点しか取れないような教科書を生徒に使わせんなよアホか!」
「ああ、そういえばそんなことも言われてたな」
「もしお前やジャレッドだったら絶対にそんなこと言われなかっただろう」
「そりゃあそうだろうな。日頃の行いの差だ」
「そんなわけで俺はあの生物学の教師に仕返しをしようと思う。最近アンデルセンのとあるグッズショップが考案した、世にも可笑しい商品だ。その名も“ブーブークッション”!」
「名前からして嫌な予感しかしない」
「また“野蛮人の知恵”か。お前も物好きだな、テオ」
「シャンデリアや蓄音機なんかは気に入るくせに、ゲンキンな奴だ。まあ我が愛しきお父様もその技術を評価しているだけで認めてはいないみたいだけど。……さて、この麗しいブーブークッションを、あの先生の椅子の上に置いたらどうなると思う?」
「そんな怪しげなもの、見た瞬間捨てるだろうな」
「じゃなきゃ払い落とす」
「夢がないぞ二人とも」
「夢ばっかなんだよテオドルスは」
「おい、こんな話をしている間に昼休みが終わるだろうが。もうトークショーはお開きで構わないな? とにかく二酸化炭素のない新鮮な空気が吸いたい」
「窓を閉めて外に出よう、ここはテオ通しが良すぎるんだよ」
「散々だな。ところで、食堂のキドニーパイが食べたい気分、ほら行くぞ」
「誰よりも早く切り上げるのがお前らしいよ、本当」
「で、そのブーブークッションとやらはどうするんだ」
「なんか面倒くさくなった。イェルビンスキーにでもやるよ」
「平手打ち食らわされるぞ」
「こりゃ大変だ、とっとと医務室へ急患の予約しに行かなくちゃな」
「お前らも行くだろ? 今日は中庭で食べようじゃないか」
「賛成」
「中性」
「アルカリ性」
「こういうときこの三人でよかったって思うよ」
「ほら、早くしないと二、三年に中庭を取られるぞ。あそこはいつもヘイルやバトリックの溜まり場だ」





とあるちょっとの悪ふざけ



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