ブリキの心臓 | ナノ

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「エイーゼ、何故そんなにも頑なにグリーンピースを避けているの? 貴方の皿の一部が不格好に緑化していっているわ」
「それを言うならアイジー、お前の皿の上に生い茂ってるパセリの森はどうしたんだ? そろそろ根元から伐採すべきじゃないのか?」
「お生憎様、トマトを収穫するのが先なのよ。ああ、それまでにこの森は枯れてしまうに違いないわ! そして新しい命が芽吹きだすのよ! 次はレタスがいいわね」
「捨てる魂胆が見え見えだぞ。いくら朝からお父様やお母様が出かけてるからってそんな好き嫌いが許されるとおもっているのか」
「あーら、そういうお堅い言葉は自分の皿の上をよおく見つめてから仰るのね、お兄様! まるで毬藻が転がってるみたいよ?」
 互いの皿の上を指摘しあいながら二人は朝食と戦い続けた。テーブルにはバターをたっぷりと塗ったトーストに色とりどりのサラダ、マフィンやフィナンシェが置かれたバスケットの隣には三色のジュースが並んでいる。雑多に散りばめられたジャムを眺めてアイジーはトーストを持ち上げた。
「大体エイーゼは偏屈なのよ。グリーンピースみたいに可愛い見た目をしている食べ物のどこが気に食わないというの? いえ、気に食わないんじゃないわね。食わないのよ」
「今日に限らずいつもパセリを残しているお前が言うな。僕はいつもちゃんと我慢して食べているだろう。お前と一緒にするな」
 ふとエイーゼが視線を移すと、アイジーはトーストに全種類のジャムを塗るという暴挙をしでかしていた。
 アイジーはいつもこうだ、オーザやイズがいなくなると、それまでの欲望を爆発させるみたいに発散する。いつもの我が儘が五乗にもなるのだ。二人がいないときですら残していたパセリはきっと庭にでも埋められることだろう。哀れなパセリの末路に粛々と嘆きながら、エイーゼは十五個目になるグリーンピースを皿の脇へ追いやった。今日くらいは自分だって我が儘が許される筈だ。
「それで、エイーゼ、貴方はそのグリーンピースをどうするつもりなの」
「最近暖炉の薪が足りてないようだったじゃないか」
「まさかくべるつもり? グリーンピースの魂が炎となって襲うに違いないわよ」
「お前のパセリこそ埋めた途端木のように伸びて、きっとお前にその枝を刺すぞ」
「だったらパセリとグリーンピースを交換しない?」
「恨みがましくぐちゃぐちゃに潰されたパセリとか?」
「嫌われすぎてカラッカラに干からびたグリーンピースとね」
「愚問だな」エイーゼはグラスに入った残り少ないオレンジジュースを飲み干した。「ちなみにアイジー、まさか本当にそれを庭に埋めるつもりじゃないだろうな」
「確かにちょっと考え物ね。チェリーカットにでも食べさせようかしら。お父様とお母様にはバラさないように口止めして」
「いくらなんでも可哀想だ。その死骸みたいなものを無理強いされるチェリーカットの身にもなれ」
「やっぱり私も暖炉にくべようかしら……エイーゼ、これも一緒に処理してくれない?」
「魂が炎となって襲ってくるんじゃなかったのか?」
「その瞬間に水をかければへっちゃらよ」
「湿気て三日は使えないだろうが」
「やっぱり埋めるしかないのかしら、もしかしたらいい肥料になるかもしれないわよ」
「だったらこのグリーンピースも持っていけ。多分栄養価たっぷりだ」
「ああ、やっぱりダメだわ、最近庭師が新しい球根を植えたばかりだとお母様が言ってらしたもの。きっとカンカンになって怒るわよ。綺麗な花の蕾から、パセリとグリーンピースが出てきてしまうんだからね」





玩具箱のような朝のこと



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