俺は徐に自分の首と腹を摩った。どっちが重症なのか考えつかない。感覚としては首は致命傷だったが腹のほうが痛かった気がする。
三日間眠りつづけていたということは足も随分と鈍っているんじゃなかろうか。人間の体とはおかしなもので、怪我をしても歩けるのに少しの間でも休んでしまえばそれだけで生活すらままならないことがある。遊馬の受け売りだ。自分の体を達観的且つ客観的に言う奴だ。


「そうだ、朽崎。買い物は出来たのか?」
「え?」
「え、じゃないだろう。あの日俺と一緒に行ったじゃないか。そのままゴタゴタほにゃららしたから結局なにも買えないままだった……もう買い物は出来たのか?」
「……忘れてました」朽崎はぽかんと口を開ける。「してません」
「ならばよし」


俺はぴんと人差し指を朽崎に向ける。人に指を向けちゃいけない? ならなんのための人差し指だ! 人差し指こそ人間に与えられしこの五本の指の中ただ唯一他人に向けることを許された言わば選ばれしフィンガーなのだ。
朽崎はきょとんと、宝石にも替えがたい綺麗な目を丸くさせる。
俺は口を開いた。


「朽崎、俺がまた特別に買い物に付き合ってやらんこともない」


ティメラシウスの導きがあれば迷子になることはあるまい。人前で飲み食いが嫌なら俺の前だけですればいい。
お前は怖いが、嫌いじゃないよ。


「是非、お願いします」


朽崎は照れ臭そうに笑った。ミルクに蜂蜜を溶かしたように滑らかな、それでいて真っ白い頬がふんわりと紅潮する。長い睫毛が弧を描いて小さな影を落とした。頬には蹂躙するような真っ赤な傷があるけれど、少なくとも俺達の前で隠すことはなくなった。


「私、本当はアイス食べたかったんです。マシュマロストロベリーとチョコレートチーズケーキ」
「そうか。じゃあ俺はイカスミナタデココだな」
「ふふっ、そんなこと言って、絶対他のを頼むんですよ、ラムネソーダとか」
「当たり前だろう。そんなゲテモノ食えるか」
「相変わらず適当ですね」


俺が適当なのは最早天啓だ。神が面目躍如たる才能っぷりを存分に発揮しろと仰せたのだ。テキトゥーアイランドという名の精神国まで存在するくらいなのだから相当だろう。もう自分でもなに言ってんのかわかんなくなっちゃったよぐへへ。


「あ、そういえば」


俺は朽崎に尋ねる。


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