……なんだかなあ。
こんなことを言われると、怖いものも怖いと言えなくなる。こんなに綺麗な女に微笑まれて、いい気にならない男はいない。


「ありがとうを言うのは、むしろ俺のほうなのにな」
「並木さんからはもう頂きましたし」
「だからってお前が感謝することないだろうに、これがどっちがどっちの立場かわかりゃしない」


俺が呆れていると、朽崎はまた笑顔で「並木さん」と言う。まるで俺の名を呼ぶことが楽しいように、声をかけるのが幸せなように。


「並木さん、好きです」
「ああ」
「本当に本当に大好きです」
「そうか」
「きっと世界一好きです」
「嬉しいな」
「だから、付き合ってください」
「ごめんなさい」


フられちゃった、と朽崎は囁くように言った。
けどもう泣いたりしない。俺のそれ以上の言葉を求めていない。むしろ俺を求めていない。ただ朽崎は自分の想いだけを求めている。


「私、これからも貴方を好きでいてもいいですか?」
「勿論だ」俺は強く言った。「むしろ俺がそれでいいのかと聞きたいくらいだ。俺がお前のことを恋愛感情で見ていないのは事実だし、出会ったばかりだから遊馬や秋や否見よりも友情を感じない、可愛い女の子扱いはするだろうがそれ以上でもそれ以下でもない。俺は自分を好きになってくれるお前を、クラスメイト以上で扱うことをまずしないだろう。俺はただ告白されたという裕福感と優越感に浸っているだけのとてつもない嫌な奴に成り果てる。それでもお前は、俺が好きなのか?」
「はい」


即答した。
考えもなしに。
当たり前だと言うように。


「それでいいんです。並木さんはそのままでいてください。面白くていつも無表情で寝不足そうなクマがあって、宝塚のラインダンスの練習ばかりしていて出鱈目で自分のことを紅顔の美男だと思っているナマコみたいな並木さんが、私は好きなんです」


暗にフった俺のことを責めてるんじゃないかと思わせるほどの言葉の羅列だった。というよりも朽崎の中の俺像がとても気になる。そんな珍奇で珍妙な男に恋をするなんて変態じゃないのか。ノーベル変態賞を朽崎に贈りたい。
しかしまあ。
そこまで言われてしまえばもう俺の言葉は不要だろう。むしろ蛇足だ。猫舌だ。熊手だ。使い方合ってるか心配だがどれも似たようなものだし大丈夫だろう。鳩胸!


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