すると秋が弾かれたように体を揺らす。それから怪訝そうに俺を見た。


「でも本当、ビビらせんなよー、深夜。喋ってて急にどっか行っちゃったと思ったらいきなり病院に担ぎ込まれてくんだもん」
「フッ、男は背中でしか語らない。ただ一言、俺は立派にやり遂げた、とだけ言っておこう」
「三大緊急車両のうちの一台に乗れたわけだしな」
「キャンプファイヤーでもして消防車デビューもついでにしたら?」



夏休みの早朝ラジオ体操のスタンプ集めかなにかみたいに茶化してくる遊馬、相変わらず小憎らしい態度をしてくる親友をよそに俺は真実秋には感謝していた。


「秋には礼を言いたい。あの夜のお前は実にファインプレーだった」
「は? 俺なんかしたっけ」
「恩に着る。もう一生脱がない」
「洗濯はしとこうな」
「とりあえず感謝の気持ちを表すために歌を歌いたい。聞いてください――『キリストには代えられません』」
「ごめん、なんの歌?」
「多分俺への賛美歌だ」


そう言ってからもう一つ林檎を齧る。シャコッと小気味の好い音とともに芳醇な味が口の中で広がった。蝦蛄じゃないよ! そんなイタリアンジョークは車庫にでもポイしちまいな!
そういえば。
未だに強く信じることが出来ないのだが、この平成のチャップリンとまで歌われた光・並木深夜・源氏が生きている――あれだけの血を流しても生きている。そのことがとてつもなく不思議だった。まあ俺ほどの美貌を持つ男が真っ赤になって倒れていたら“きゃん、これは大変なことだわん!”とすぐに蟻の群れのような人だかりが出来るのも無理はない、通報されて真っ白い天馬もとい救急車が俺を迎えに来るなんてのは時間の問題だったことだろう。もしかしたらその間に俺のパンツに自身のメアドを書こうと不埒なことを考えたオカマだっているかもしれないし、あまつさえ俺の優美な上腕二頭筋を舐め腐ったオネェもいるかもしれない。どっちにしろおニューなハーフだ。
しかし、発見されるのがあまりにも早すぎる。
もしかして最初に朽崎に狙われていた人間が通報してくれたのか?
可能性としては有り得なくはないが絶対に有り得ないと俺は確信出来る。口裂け女に襲われて、そしてそれ以降もかかわろうなどとどうして思えるだろうか。反語!


「さっきから難しい顔をしてどうしたんだい深夜」
「ん、んー……いや。なんでもない」
「ボケたの? いつも線香花火みたいに一方的なバーゲンセールしてる頭のネジを更に落としちゃったんじゃあるまいね?」
「大丈夫だ。今日は定休日だし落とさなかった。でも売ったほうがいいかな?」
「黙るといいよ」


ふったのはお前だろうが。


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