「それでも食べて元気出しなよ。深夜。僕はちょっと先生に会ってくる」
「先生って?」
「君の首を治してくれたお医者さんだよ」


そこで俺は改めて自分の首をゆっくりとなぞってみる。包帯が施してあって、どこか少し息苦しかった。ここまでぐるぐる巻きにされているといやな想像ばかりしてしまうな。触り続けたらだんだん痒くなって掻き毟ると蛆虫が出てくるんだ。きゃあ楽しい! 永遠に六月の虜よ! とりあえず死んではいないことを再確認出来た俺は安堵する。
その様子を見た否見がフッと微かに笑った気がした。


「まあ色々と、話をつけなきゃいけないからね」
「話?」
「うん。君には関係ない。大丈夫だ」
「だからってお前とも関係ないんじゃないのか? 俺の治療費の話とか……先生に任せておくようなことじゃ?」
「うん、大丈夫」


まるで言葉を濁すようなそれに一瞬怪訝な感情を覚えたから、否見の言った一言によりすぐにそれは消え失せる。


「僕のイボ痔から生えてきたパキラの枝を切除してもらいに行くだけだよ」
「それは大変だな、気をつけろ」
「そんなの信じるの、深夜」


俺がびしっと敬礼すると否見は「うん、行ってくる」と返して手をヒラヒラ翻した。


「深夜、あんなの本当のわけないだろう」
「何故お前はそんなことが言える? もしかしたら否見は長年イボ痔から生えてきたパキラに苦しんで自殺すらするかもしれないんだぞ」
「まずよく見なよ、いや、よく見なくてもわかる。パキラは生えてない」


呆れた目。遊馬は渇いたそんな目で俺を見つめてくる。そんなに見つめられたら穴が空きそうだ。あっ、鼻に二つも穴が空いただろ、もーう、言わんこっちゃなーい。
ふと朽崎を見ると不安げに眉を曇らせていた。俺の美顔に穴が空いたのを懸念しているのか、なんと心優しいマザー・テレサのような人間なのだろう、もしかしたらマザー・テレサの生まれ変わりのお隣りさんなのかもしれない。そんなことを考えていると朽崎の視線が林檎のほうに向いているのを俺は察知した。なんだ。今更ながらこの林檎を信長切りにしたくなってきたのか? 本能の変化か? もう一つ剥くか?
俺は朽崎が剥いてくれた林檎を一つひょいと啄んだ。
すると朽崎はパッと顔色を変える。


「美味しいですか?」
「ああ。美味しいな。ほのかなてっちりの切なさと納豆の儚さとシャルドネの危うさが見事に表現されている」
「うふふ、よかったです!」


いや、朽崎は切っただけじゃん。
なんて言ったらマナー違反だろうと俺は心臓に留めておいた。


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