「じゃあ朽崎、お前はなんであのあと…………俺にフられたあと、学校からいなくなった? お前だって、俺を、嫌いになったんじゃないのか?」
「有り得ません!」


豪語された。


「それはないです、私は並木さんが大好きです、それはきっと、これからもずっと……嫌いになんてなれるわけがないんですよ…………言ったでしょ? 嘘でも私を綺麗だと言ってくれたのは……貴方、だけなんです!」


また切り込んでくる。
言動と行動が全く違うんだが。


「好きだから、……苦しいから、貴方のそばにいると、私も、貴方も、辛いから……だから、離れたんです――――」


よッ、と。
俺の頭上ギリギリを鋏が掠めた。
バランスを崩してその場で倒れてしまった俺に、朽崎は跨がる。
一週間前のデパートのときのような体勢だった。結局は、ここに行き着くらしい。今までの展開はまやかしだな。イエスまやかし!


「それはどういう意味だ?」
「そのまんまの意味ですよ」
「フられたお前が苦しいのは、わかる。俺にはどうしようもない。拒絶したんだから引き止められもしない。お前の行動はわかる。だがな、朽崎。俺が苦しむ、っていう言葉の意味がわからない。何故俺が、傷付かなきゃいけないんだ?」
「傷付くに決まってるじゃないですか、何を言ってるんですか並木さん」


さも当たり前のことを言うように朽崎は笑った。幸せそうな笑顔なんかじゃなく、皮肉めいた、自嘲めいた、果てしなく可哀相な笑み。


「嘘も強がりもいいんですよ。私は、傷付くのがわかってて、この先がどうなるかわかってて、逃げ出したんですから」
「………………なにを?」
「だって、そうじゃないですか」


“貴方が傷付かないわけが、ないじゃないですか”


「――私なんかに、告白されたんだから」


俺は、目を見開く。


「気持ち悪いですよね、ごめんなさい。迷惑でしたよね、ごめんなさい。私の好意なんて、貴方にとっては一生の恥にしかならなくって、物笑いの種で、だから、だからだからだから――――………………!」


朽崎は、泣いていた。


「どうせそうなんでしょう!? 貴方も私が鬱陶しいんでしょう!? 厭らしいんでしょう!? 一生の恥だって、思ってるんでしょう!? わかってますそんなの! 誰だって……っ、誰だってそう思うに決まってるんだから! どうせ私が悪いんだから……っ! 貴方も“彼”とおんなじだ! 私を拒絶した、あの人と…………っ!」


ぼろぼろと零れ落ちる。
嗚咽が混ざった滲むような声。ひたすらに我慢して我慢して、押し殺して、それでも溢れ出してしまった誇り高い涙。見ているだけで心が痛む。今すぐにでも抱きしめて慰めてやりたい。涙を拭ってやりたい。憐れで惨めで、それでも、こんなに高潔な姿ったらない。


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