鋭い眼光を放ち、猛獣のように襲い掛かってくる。そのしなやかな動きはライオンやチーターなど、狩りをする肉食動物そのもの。煉瓦色に閃く髪を炎のように揺らしながら、俺に鋏を振りかぶってきた。
俺は間一髪で避けるも、肩を少しだけ切られる。肉が削げた。あの鋏についているのは確実に俺のだろう。やばい。殺される。


「ほら! やっぱり、怖いんじゃないですか! 綺麗じゃないんじゃないですか! 好きじゃないんじゃないですか!」


まるで火花が散るように、早く不規則で容赦のない切り込み。避けるのがやっとな攻撃を朽崎は繰り出してくる。
こんな華奢な身体のどこにそんな力が。
スピードもステップも申し分ない。
ハリウッドのアクション映画に出てきそうなくらい軽やかな身のこなしだった。
きっと、ずっとこんなことをしてきたんだろうな。こんな寂しいことをし続けてきたんだろうな。それも、独りで。


「待て、朽崎。お前は綺麗だ。だが傷口は怖い。そして俺はお前が好きじゃない。それだけだ!」
「違うでしょうッ? “綺麗”は嘘、本当は私が怖くて気持ち悪くて、嫌いなんでしょう!?」
「誰もそんなことは言ってないだろう?」
「言ってるんですよおっ!」


深く――剣を突き刺すかのように、朽崎無言は鋏を俺に振るう。
次は腹をやられた。
血が制服越しに溢れ出す。
その様を見ても、朽崎は臆さない。俺は臆しっぱなしだというのに。これは実にフェアじゃないな。


「私が……私が綺麗だったら! 怖いわけないじゃないですか! 好きじゃないわけないじゃないですか……! でも違うんでしょう!? 違うんなら、それは、違うんですよぉ……ッ!」


朽崎も疲れてきたのか、肩で息をするようになった。上出来だ俺。しかしここに至るまでの負傷がデカすぎる。これじゃマイナスのほうが大きい。

にしても、朽崎のさっきの口ぶり。
俺はなんとなく理解する。
彼女――朽崎無言にとって――自分を綺麗だと言ってくれる人イコール自分を好きになってくれた人――なんだろう。
だからこうした感情摩擦が起こる。
矛盾現象が起こる。
彼女は圧倒的に間違っていて勘違っていて擦れ違っていた。間抜けもいいところだ。容姿を褒められただけで、好きになるなんて。好きになってくれたと勘違いするなんて。馬鹿馬鹿しい。阿呆じゃないのか。逆に笑えてくる。
そして、だからこそ。
泣きたくなる。
綺麗だ、と言われただけで好きになるなんて。相手もそうだと思い込むなんて。
今まで誰にも――お世辞ですら――言われてこなかったんだろうな。
醜いと。怖いと。気持ち悪いと。そんな寂しいことばかり、言われ続けてきたんだろうな。


*prevnext#



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -