「どうしようもないことだったんじゃねーかな。どうしようもなくて、しょうがなくて、必然、ってやつ?」
「必然か」
「必ず然る。なんつって。……でもまあ、あと出来ることと言ったらアレだよなあ」
「アレ?」
「泣かせてやればよかったんだ。その鬼は今まで泣けなかったんだから」
「いや、泣いてた」
「あ、マジか、そういうパターンね」
「そう、泣いてたんだ……」


――貴方だけは、ダメだ――って。
……………………ん?
“貴方だけは”?
これは、どういうことだ?
いや、単純に考えて、過去で俺以外にも朽崎を裏切った、というか、フったやつがいるってことなんだろうけど。
あのとき朽崎は、俺に向けて鋏を振り上げていた。明らかに、殺そうとしている目だった。そしてそれを、鋏を落として、言ったのだ。

“貴方だけは、ダメだ”

――――“他の人は、殺したけれど”?


「…………なあ、秋」
「なんだよ」
「噂の切り裂き魔事件って、今どうなってるんだ?」
「は? 聞いてなかったのかよアホ。未だ犯人は捕まってなくて、しかも被害者は急増してんだよ。一週間ぐらい前からグーンとな。それ以前の最後の事件からはちょっと感覚あったのに、思い出したようにバーンッて。だからみんな朽崎ちゃん心配してんだろうが! 一週間前って言ったらお前朽崎ちゃんが失踪した時期とほぼ同じ、って、おい、どこ行くんだよ深夜! おーいっ! 授業までには帰ってこいよーッ!」


俺は秋を置き去りにして校舎を出る。深い夜は空気を冷やして俺の足音を響かせる。急いで校内を出て町を走り回った。
推測に過ぎない。
推論に過ぎない。
でも、思えば朽崎は――言っていた。
“よかった。並木さん、怖がるといけないと思ってたので”
初めて会った日にしたって。なんで年頃の女が真夜中あんなところにいたんだ。不自然だろう。そして、お決まりの常套句。ステレオタイプの、巷談俗説。――“私、綺麗?”――その、意味。今起きている切り裂き魔事件が、その意味の《最悪》の果てなのだとしたら。俺のように、“綺麗だ”と返せなかった者の末路だとしたら。無理矢理だけど、確かに解決できる。だって朽崎無言は、《口裂け女》、なのだから。

走って走って、疲れすら忘れて、朽崎を探す。
この一週間の間に切り裂き魔事件の被害が急増しているのは、多分、俺をなくしたからだ。朽崎が、並木深夜という人間を――自分を肯定してくれた相手を――なくしてしまったからだ。
彼女は今も躍起になって、亡霊のように探している。肯定してくれる相手を、探している。そして――――殺そうとしている。ダメだったから。また、否定されたから。
こんな悪循環はない。
いっそう哀れだ。


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