目を見開いた朽崎はやんわりと頷く。俺はそれを確認した後に両手を離した。朽崎はそのまま俯いて、俺が離した自分の両頬に手を沿える。よくはわからないがやけに耳が赤い。唐辛子餃子のような有様になっていた。心配になって「朽崎?」と尋ねれば「はいんっ」と間抜けな声が帰ってくるだけ。なんだこの不可解な生き物。生まれてはじめてスライムに触れたときの感覚と似て非なるものがあるな。
暫くその様子をじっと見つめていると、やっと落ち着いた朽崎が苦笑混じりに顔を上げる。


「うふふ……すみません」
「いや。落ち着いたか?」
「なんとか」
「なら結構」


朽崎は一瞬迷ったように首を傾げたが、すぐさまに人差し指をピンと立てて、百合の花の声で囁くように言う。


「ああ、そうです。皆さんへのお菓子! 皆さんはどんなお菓子が好きなんでしょうか? お土産屋に売っているような箱詰めにされた感じのを買おうと思ってるんですけど」
「んー……そうだな。皆割となんでも好きだろうし。でも確か、ゼリーかヨーグルト食いたいとか言ってたような……柔らかいものに飢えてるんだろうか」
「なるほど。では深夜さんはなにがよろしいですか?」
「…………俺は」


そうだな。と考えて。


「ナタデココ食べたい」
「わかりました」


俺がそう言うと、朽崎はにっこりと柔らかく微笑んだ。
一瞬、朽崎がナタデココが苦手ならどうしようかという考えが頭を過ぎったのだが、愛想よく受け答える彼女を見る限りにおいて、それは杞憂で済んだようだった。最近はいやにナタデココを食せない若者が増えてきていて遺憾に感じていたところだ。イカンよー、触感がイカに似てるからとかそんなのイカンよー。


「あっ、並木さん、アイス食べません?」


ふと気付いた風に、目の前にあるレインボーハットを指差す朽崎。女子は甘いものが好きだな。俺は「そうだな」と言いながら店頭に並ぶアイスを眺める。値踏みするように観察するが、なるほどどれも美味しそうだ。この期間限定イカスミナタデココアイスなんか、今の気分にぴったりじゃないか。どれがいいですか、という朽崎の言葉に俺は即答で指差した。


「ラムネソーダ」


イカスミナタデココアイスだと思ったそこの貴方。悪いな、俺は期待を裏切るニヒルな男だ。俺をお前のものさしで縛るなんて百年早いぜ。見事予想出来たそこの貴方。グレイト。並木深夜検定取得も夢じゃないだろう。どうかそのまま無駄な努力を続けてくれ。
朽崎はコクンと頷き、店員に「ラムネソーダ一つ、カップで」と告げた。


「付き合ってもらってるお礼です」


朽崎は女子らしい財布からワンコインを取り出して店員に支払う。女子に奢らせるなんてと思いポケットを摩ってみたものの、俺はあくまで朽崎の付き添いで来ただけ、財布など持ち合わせてはいなかった。これは痛い! いや、持ち合わせていたところで払えるだけの財力があったとは到底思えない。つまり俺は、気付いたときには負けていた。ちきせう。


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