「にしても、遊馬の要注意っぷりはなんだったんだろうな」
「遊馬崎さんの?」
「切り裂き魔についてずっと言ってたじゃないか」
「ふふ、お友達の並木さんが襲われたら、と……気が気じゃなかったんでしょう」
「そんな殊勝な奴とつるんだつもりはないんだがな」
「並木さんったら。友達でしょうに」
「むしろ殊勝じゃない奴を好んでチョイスしていたんだぞ。馬鹿みたいじゃないか」
「並木さんの思考は迷宮ですね」
「普通に考えて、切り裂き魔なんかに出逢う確率よりももっと他のものに会う確率のほうが、きっと高い」
「例えば?」
「ピーター・パンとか」
「可愛いですね、並木さん」


マスクで隠れた頬を仄かに染めながら朽崎は言った。
そして、フイと視線を移し、次の瞬間嬉しそうに目を見開いた。
俺もそちらへと目を遣る。
大きなデパートの姿が見えてきた。


「もうすぐですね」
「ティメラシウスの言う通りだな」


俺の言葉に朽崎は「そうですね」と苦笑した。





B

まるで、デートスポットのようにキラキラとしたデパートだった。清潔感に満ちていて、しかし疎外感は一切感じられず、親しみ安さを兼ね備えた空気の中にはオーロラの感情が溶け込んでいる。
ブティックが立ち並ぶエリアからは絶えず極彩色独特の刺激が流れ出ていたし、スイーツやアイスなどが売られているエリアからは白檀のような芳香が輝くように揺れている。ガラス張りの建物内から見える世界は決して無機質的でなく、パノラマにありそうなくらい穏やかで美しい。デパート内はあちらこちらに魅力が浮き立ち、メンズショップに差し掛かったあたりなんかは時計やネクタイの独特の煌めきに眩しさを覚えたくらいだ。
何かのキャンペーンの一貫だろうか――遊園地にいるようなうさぎの着ぐるみを着た人に、持っていた中の赤い風船の一本をもらった朽崎は、ドキドキを楽しんでいるような眼差しをしていた。
そんな無邪気な顔をして。
余程楽しみにしていたんだろう。
俺は自分の腕を組み、少しだけ口角を上げた。


「まずは何処へ行く?」
「えっ。えっと、えっと、そうですね。ロフトでレジャーシートを買って、あっ、でもそこにある店でパジャマを買うほうが。ん、でもお腹空きましたよねっ? 一回のフードコートでクレープでも」「朽崎」


デパートのパンフレットとにらめっこしながらぐるぐると目を回す朽崎。朽崎の柔らかい頬に手を重ね、「落ち着け」と言う。


「急ぐな。ゆっくりでいい。デパートも俺も逃げたりしない。最後までちゃんと付き合う」


*prevnext#



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -