“メリーさん”――怪談として巷説される都市伝説。
とある少女が捨てた人形、“メリー”が、持ち主である少女に迫って来るという話。メリーさんから少女に電話がかかるにつれて、だんだんと少女へと距離を近づけていき、最終的には『今貴女の後ろにいるの』で恐怖の余韻を残すタイプの逸話だ。
しかし、道聴塗説。
類話が堪えないのは必然。
例えば設定や後説として。
振り向けば殺される。
少女が刃物で刺される。
少女の生死、怪我の具合は様々。
マンションが舞台で、電話の度に自分の住む階に近付いてくる。
轢き逃げをしたタクシーの運転手に、被害女性から電話がかかるパターン。
名前はメアリー、メリーなど様々で日本人の場合もある。
リカちゃん人形であるというパターン。
チェーンメールでも伝播され、「メールを送らなければあなたも死ぬ」とされた。
少女は電話を意に介さず、後ろにいると言われても無視して出掛けてしまい、少女の後ろを半泣きでついて行くメリーさんの姿が目撃される。
舞台が超高層ビルで、少女はその百四十七階に住んでいる。
その上、メリーさんはエレベーターを使わずに階段で上がってくるため、それによる疲労のためか、一階上るごとにかけてくる電話の声がだんだん息も絶え絶えになり、家にたどり着く前にメリーさんはダウンしてしまう。
メリーさんはそのまま通り過ぎてしまう。
何年後かに『ロシアのハバロフスクにいる』という便りが届く。
などなど。怖いストーリーからダサいストーリーまで。様々な説を孕んでいる“メリーさん”――――人形メアリは、その都市伝説そのものなのだ。
「さっき、電話がどうのとおっしゃっていたのは……」
「そういうこと。まあ実際、人形さんが誰かの元へたどり着いたことはないみたいだけど」
「確かこの前なんか、電話かけたとこが怪しげな宗教団体だったし、その前は霊感商に引っ掛かりかけてたな。ははははっ、ウケるだろ?」
「は、はあ」
「信じられない?」
「えっ」
「まあ、そうだろうな。メリーさん、なんてさ」
皆半信半疑だし、と――否見はクツクツと肩を揺らした。
秋は頭を掻きながら苦笑している。
しかし遊馬は神妙な顔付きで。
「でも、朽崎さんだって、似たようなものだよね」
そう、彼女に言い放つ。
彼女は黙ったままだった。
黙ったまま、「端から見れば、かも知れませんよね」と、僅かに目を伏せる。
奇妙な空気が流れる中。
俺はただ呟いた。
「ラーメン食いたい」
いつになったら調理実習するんだろう。