「よ、よろしくお願いします……」


訝しそうにお辞儀をする朽崎に、否見は肩を揺らした。顔も見えないし、声も出さない。もしかしたら、笑っていたのかもしれない。


「びっくりした?」
「えっ……………」
「僕、こんなカッコしてるから」
「…………えっと、怪我してらっしゃるんですか? 包帯……」
「全身包帯って、それどんな怪我」


マフラー越しのぐぐもった声が震える。クツクツと笑っているみたいだ。
全身包帯の怪我なんて、俺としては縄跳びぐらいでしか出来ないと思うのだが、そこのところ皆さんどうだろうか。ちなみに、だるまさんが転んだが縄跳びの次の有力候補。


「今はこの二人ぐらいだね……そういえば人形さんは?」
「先生連絡貰ってないの?」
「うん。……今夜は来るって言ってた筈なんだけど」
「またそこらへんに電話かけまくってるんじゃないのか」
「一時期は市内のコールセンター制覇する勢いだったしね」
「最近は110番にハマってるらしいぜ」
「迷惑にもほどがあるな」
「……あの、並木さん。人形とは……?」


俺は朽崎を見下ろした。
そうだった。
朽崎は人形を知らないんだった。


「人形メアリ(ひとがた・―)、俺たちと同じく夜間部に通ってる奴だ。女子同士だし、朽崎も仲良くなれるといいんだが」
「まあ。女子もいるんですね!」


やっぱり男子ばっかりは心細かったのか、朽崎の声は少しだけ安堵が混ざっている。

しかしなあ。


「あの人形さんと、朽崎さんか……」


遊馬の呟きに、否見は「あー」と唸るような声をあげる。
俺も否見と似たような心境だった。
どのくらい似てるかと言えば並木深夜が俺に似ているくらい似ているな。並木深夜以上に俺に似ている人間なんて並木深夜しかいないんじゃないか。
つまるところ同じである。
うわははは。


「えっと、どんな方なんですか?」
「うーん、と…………」


人形メアリ。
夜間部受講生徒。
華奢で小柄な体躯。綿菓子のようにふわふわとカールする金髪のショートカットに、光を浴びた森の新緑みたいに碧々しい瞳。ちょこん、と座っている様はまるでビスクドールさながらで、息をしているのかと疑うような少女である。
性格は極めてピーキー。アップダウンハイローの激しい奴なのだ。きゃらきゃらした幼女同然の声をしていて、同学年とは思えない彼女は、ある意味見た目のままの気性をしているように思う。
普通に接していれば陽気な人間だし、悪い奴でもないのだが。

しかし。


「メリーさん―――って、知ってるか?」


朽崎は目を瞬かせた。


*prevnext#



×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -