摩訶不思議高校夜間部。
偏差値は進学校下の上、設立三十年も経たない、私立摩訶不思議高校の、深夜の部――――所謂、夜間学校だ。
定時制だのなんだのの類の夜間学校ではなく、ここは正規の意味での“夜間学校”だった。摩訶不思議高校通常授業と夜間学校は、同じ学び舎内で行われているということしか同一は存在せず、全く別のものとして独立している。制服は支給されない、教師も存在しない、使えるのは特別棟二階大講義室とその真横にあるトイレと保健室のみ。体育館は許可を得れば使用可といった具合。まず教師がいないのに授業が出来るのか、と訝しむのは同感だ。怪しからん。実に解せない。だがそこはこの夜間学校の面白いところ。“生徒”が自身で“教師”を見つけだすのだ。それは親だろうが兄弟姉妹だろうが赤の他人だろうがなんでもいい。その“教師”を自ら設定すれば、学校の方から給料を払ってくれるという奇怪なシステム。おまけに授業料教室使用料は一切無く、また身分証明や両親の承諾無しでも、学校に口頭申請するだけで受講は可能だった。自由過ぎる。そして怪しすぎる。こんな利益も何もなさそうなことを学校がやるのか。意味がわからない。ただ生徒側からすれば何より有り難いのは――――朝昼間は屋上に限り学校に滞在して良いということだった。超自由型夜間学校を受講する生徒の生活実情など、まともじゃないことは目に見えてどころか見えなくてもわかるだろう。大体の生徒は家がない乃至絶賛家出や勘当中。この甘美な汁のような条件に飛び付いた人間が殆どだった。深夜ロハで受講出来る、朝昼間は屋上及びそれに通ずる階段の踊り場を寝床や雨風を凌ぐ場として確保出来る。これに風呂と食事も付けば有り難いがそこまでの贅沢は求めまい。風呂なら授業後プールシャワーで代用可能だし。実に有り難くかつ異常に胡散臭い学校だった。

そして、俺と遊馬は、その胡散臭い夜間学校の受講生徒であり。
そして登校時間は真夜中零時丁度。

あと五分もないとは、正しく遅刻寸前だ。


「ちなみに今五十七分になった。あと三分というわけさ」
「そうか。わかった。なら遊馬。俺の足を置いて先に行かせろ」
「駄目だよ、君を置いてはいけない。死なばもろともさ。親友だろう? 深夜」
「俺を置いて先に行けなんて言ってない」
「それにそろそろ着くよ。君が寝ている間に僕はかなりの距離を運んであげたんだ」
「引きずったの間違いじゃないのか」
「この貸しは、そうだな……今度僕が目を覚まさなかったときには起こしてほしい」
「引きずってだな。了承した」


ピタリ、と。
急に遊馬は足を止める。
それと同時に引きずる作業も止んだ。止まなかったら絶句ものである。一体どんなポルターガイストだ。


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