思考と志向と嗜好 | ナノ




櫂の横顔とか、正面顔とか、後ろ姿とか、あと振り返った時とか。綺麗だなーと見つめて嫌な顔されてまたそれが可愛いなぁと思ったりして。
鋭すぎるぐらいの翡翠色が俺の思考を捕えて離さない。

「……ジロジロ見るな」

「…………俺そんなにジロジロ見てる?」

自分でもわかってるけど嫌がらせにあえて聞いてみる。
櫂もその質問が嫌がらせだとわかってるから何も言わずに眉間にだけ皺寄せてそれ以上は何も言わずにまた窓の外を眺める。
俺は櫂が何も言わないからまたその横顔を正面から見つめて知らないうちにニヤニヤして。

「三和」

不意に名前を呼ばれた。気がしたけど翡翠色に目を奪われて

「…三和」

近づいてくる翡翠色が、幻想の中みたいに綺麗で、キラキラしているというより、静かに輝いている宝石のようで。

ふっと唇に柔らかい感触。
しっとりと心地よい感触と静かな吐息。
ああ、このまま時間が止まったとしたら俺はすごく幸せだろうな。しばらく重なり合う時間を過ごして、名残惜しくも俺からその感触に別れを告げた。

「今日はずいぶんと積極的だなぁ〜櫂?」

「……ふん」

不機嫌そうで機嫌がよさそうな翡翠色は、少し照れ臭そうに視線をそらしてまた窓の外に目を向ける。
当然かのように俺もその横顔を見つめる。


幸せな、思考と志向と嗜好