ある夏のそれなりに暑い日。
俺はとある住宅街のとある家の前に立っていた。
今さらながらこの状況になってしまったことを後悔している。
人の家に行くのはこんなにも緊張するものだろうか?
「おっ、来ましたね櫂くん。いらっしゃーい」
そういつもと変わらない笑顔でシンは出迎えてくれるが、正直なところ俺の心臓は異常なぐらい音をたてていて、静かにしてたら聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいだ。
「今日はミサキ、遅くなるみたいですからゆっくりしていってくださいね。」
「…あ、ああ。」
戸倉がいてくれたほうが俺も落ち着いてこの家の敷居を跨げただろうが…ある意味いなくてよかったと思うのは少し変な気がした。
これだけ緊張するのはそれだけ俺がシンのことを『好き』だと思っているということで。
「櫂くん、そこに座って待っててくださいね。今コーヒーでも…あ、紅茶とかの方がいいかな?」
「…任せる」
俺がそう言うとシンは上機嫌で台所へ向かった。
俺はソファーに座って台所を横目で見てシンの様子を観察する。
普段と変わらない楽しそうに笑顔を浮かべてお湯を沸かして、豆を引いて。
ああいうシンを見てるとカードショップの店長にははっきり言うと見えない。
「なんか、」
「ん?」
「そんなことしてる方が似合うな、アンタ」
そう俺が何気なく言うと、シンは嬉しそうに笑って
「ありがとう。でも、僕はカードショップの店長でいてよかったと思ってますよ?」
「…何で?」
「だって」
櫂くんと会えたでしょ?
そう言われた瞬間、俺の体温が一気に上がったのを感じた。
ようやく落ち着いた心臓が再び激しく鼓動し始める。
「バ、バカなこと言うな」
「ホント、素直じゃないですね…トシキくんは。」
「うるさい。」
俺も、
シンがあそこにいてくれてよかったと。
そう、思ってるさ。
出されたコーヒーを飲みながら、俺は心の中で呟いた。
「今度はトシキくんのお家に行きたいなぁ」
「気が向いたらな」