何の縁かは知らないが、俺は行き付け…のカードショップの店長である新田シンと………つ、…付き合う、ことになった。
別に特別に何かしたいとか、させろとか言ってくるわけじゃないし、俺も何かを求めてるわけじゃない。
この人といると落ち着く。
ただそれだけ。この人はいちいち俺のどこが好きとか、何がいいとか言ってくる。
俺はお世辞にも性格がいいとは言えない。
自分でもいいとは思ってないし他人にもいいと思われたいとは思ってない。
でもこの人はそんな俺を『好き』だと、時には『愛してる』と言ってくれる。
俺が、
他の誰でもない。
俺が、好きなんだと。
真っすぐな目で、
真っすぐな言葉で、
それが俺を少しだけ戸惑わせる。この人は何の迷いもなく俺に好きだと言ってきて。
「櫂くん、僕はね」
櫂くんの全部が好きなんです。
綺麗な翡翠の目も、不器用だけど優しいところも。ファイトが強いところとかも。
櫂トシキっていう人間が好きなんですよ。
恥ずかしくて普通言わないような言葉ばかり囁いて、俺を困らせたいのか、大事にしたいのか…それとも、遊んでいるのか。
わからないのが腹が立つ……というより胸がもやもやする。
本当は?
本当は俺のこと、
「どう思ってる?」
思い切って聞いてみたのは誰もいないカードショップ。
前もこんなシチュエーションだった。あの時は不意討ちを食らった挙げ句逃げたけど。だけど今度は俺から仕掛ける。
この人は他とは違う。
だから、
だからきっと、俺が欲しい答えを、俺が欲しい言葉を囁いてくれる。
今までそうだったから。
俺はこの人の、そんなところが好きだから。
「変な櫂くん。何でいきなりそんなこと聞くんです?」
「そんな、こと…」
ああ、やっぱり同じなんだ。
この人も他の奴らと同じなんだ。違うのは纏っている空間だけ。
それ以外はやっぱり同じ。
この人でさえも、俺が欲しい言葉はくれないんだ。
「答えが決まってることなんて聞かないでくださいよ?」
「え…」
そんな言葉に俺が顔を上げればこの人は涼しい笑顔とともに軽くキスをしてくる。
俺は今までこんな間抜けな顔をしたことがあっただろうか。
この人の笑顔が、こんなにも嬉しく思ったことがあっただろうか。
「好きに決まってるでしょ?櫂くんが好きで好きで堪らないんですから」
「…ん。」
俺はただ短く返事をすることしかできなくて、だけどこの人は俺のそんなところもわかってくれて。
「愛してるよ、トシキ。」
「…バカか」
この人が、
俺の名前を呼ぶ。
俺の頭を撫でて、笑って
その、
シンといるこの空間が
堪らなく心地良い。