ちょっぴり注意
「アイチくんならまだですよ?」
「別にアイチに会いに来てるわけじゃない」
学校帰りに寄るカードショップ。いつも寄るときは三和が一緒にいるが、今日は珍しく一緒じゃない。
早い時間のせいか店には俺と店長である新田シンしかいなかった。
この人は神出鬼没というか、突然話し掛けてくるからたまに驚く。いつも今みたいに俺がぼんやりしてたら背後から現れて声をかけてくる。
「そうですか…では、私に会いに来てくれたんですかねー?」
(…バカか、コイツは)
へらりと楽しそうに笑って、人の話を聞かない。まるで三和と話してるときみたいだ。
本当に俺の周りにはうるさい奴ばっかりだ。
ただその騒がしさがたまに安心することもあったりする。三和が調子にのるからそういうことは言わないようにしてるが…
この人の騒がしさ…というか楽天的なところにも同じようなものを感じてはいる。
この人は三和はアイチとはまた少し違う雰囲気を醸し出している。
普段は子供以上に子供なところがあるが、たまに大人の余裕というものを見せるときもある。
「櫂くんは…」
「っ!?」
いつの間にか俺の脳内を支配していたコイツは、考え事をしている間に目の前の席に座っていた。
俺は驚いてガタッとパイプ椅子を鳴らした。
「あはは驚かせちゃいましたか?」
「……何だよ」
「ああ、いえ。櫂くんは綺麗な目をしてますねーって言おうとしてたんですよ」
………何を言いだすかと思えばコイツは本当にわからない。
「いきなり何言ってんだ…」
「翡翠みたいに、キラキラ光ってて…」
「…………」
何言ってるんだ。そう声に出して言いたかったが、あえて言わずに睨み付けてやった。
が、コイツに対しては逆効果だったようで
「そういう目、されると…イタズラしたくなっちゃいますねぇ」
そう言って俺の唇に指を軽く押しあててきた。払い除けようとしたとき、眼鏡越しの目と目が合った。
俺の鋭い目とは違う緩い優しげな目が俺を捕らえる。
鼓動が早くなるのを感じた。顔がじわじわと熱くなっていく。
唇に押しあてられていた指がすっと顎まで下がっていく。
近づく眼差し。でも俺は何か魔法でもかけられたみたいに動けなかった。
そっと唇が重なる。どうすればいいのかわからない。ただ息苦しさに眉間に皺が寄る。
「んっ…ぅん」
苦しさに息と一緒に小さく声が出る。けど目の前の相手は離れる様子もなくどんどんエスカレートしていって、俺の抵抗は虚しくついには舌が絡んできた。
俺のか、コイツのかもわからない唾液が俺の顎を伝って流れる。
誰もいない、静かな店の中でただひたすら水音だけが響く。
「ん、ぅ…やめ、ろ!」
しばらく抵抗してようやく引き離した。息苦しかったせいで息が荒い。顔も多分さっき以上に赤い。服の袖で流れた唾液を拭う。
「可愛いですね、櫂くん」
「……っ!」
気が付けば俺は店を飛び出して意味もわからずただ走っていた。
何なんだアイツは。
いきなりあんな、ことして。何考えてるんだバカなのか?!
「あんなに焦っちゃって。櫂くんもまだまだ子供ですねー…でも、ああいう子ほど、手に入れたくなっちゃいますよね」
「何の話?シンさん……」
その後、二人は恋人同士となった。