「でね、三和くんさえよかったら…付き合ってくれないかな?」
そう告げられた昼休みの中庭。自分で言うのもなんだけど俺は結構モテる方だ。
優しい笑顔が好きーとか、話しやすいとかわりと好印象をもたれることが多かったりして。正反対の性格の櫂とよく一緒にいるのもあるんだろうなぁ…
「あー…えーっと」
「やっぱり、いきなりだと困るよね?返事は明日でも良いから!」
何となく返事に困ってたら彼女は顔を赤らめながら走り去っていった。
うーん…結構可愛かったな、あの娘。さてさてどうしたもんかな。いやーモテる男は辛い!
けど、俺が仮にあの娘と付き合うことになったとして、その時櫂はどうするだろう。
気をつかって俺たちを二人にして自分はまた一人になるんじゃないか?
アイツはもともと一人が好きだから良いかもしれないけど俺は……あんまりいい気分じゃないかも。
「遅かったな」
「ああ……まぁ、ね。」
ぐだぐだ考えてるうちに教室に帰ってきてたらしい。帰ってきた俺を見て櫂が声をかけてきた。
何かいつもより不機嫌。長いこと待たせたからかな?
「告白でもされたか?」
「うぇ?」
櫂がさらりと図星を突いてきた。俺も不意打ちだったからつい変な声が出た。
「…あ、ああ」
「ふーん…」
特に興味がなさそうな感じで櫂は窓の外に目を向ける。ふと俺も外に目を向ければそこにはさっきまで俺がいた中庭が見えた。
ひょっとして………
「…見てた?」
「別に。見えただけだ」
ああ、やっぱり。
何でかわかんないけどそういうとこは櫂には見られたくなかったな。ちょっとショック…かも。
あれ、俺何でこんな焦ってんだ?…櫂は親友で、大事な存在で、大切な人で………いやいやいやいや、俺何か変だろ。俺にとって櫂って何だ?
『ただの親友』なのか?それとも俺は
(櫂が好き、なのか?)
まだ窓の外に目を向けてる櫂をちらりと見る。
昔と違って楽しそうに笑ったりしない。でも昔と変わらない…ちょっと目付き悪くなったけど綺麗な翡翠の目。
可愛いイメージだったのにすっかり綺麗な顔になっちゃって…男の俺でも正直真正面から見つめられたらドキドキする。櫂に変な目で見られるから必死に顔に出さないようにはしてるけど。
それでも、櫂はすごく綺麗で…はっきり言うと誰にも渡したくなんかないし、俺も隣を譲りたくなんかない。
「…何だよ」
「いやー別に…櫂はいないのかよ、好きな奴とか」
「さあな。」
「何だよソレ」
ちょっと期待してしまった自分を思いっきり殴ってやりてぇ。櫂はこういう奴だ。わかってるはずなのになぁ……何で期待なんかしちゃったんだ、俺?
「いないこともないけどな。」
「嘘?!マジで、誰?!」
「…バカでお人好しでどうしようもなく鈍感。」
「はあ?…全然褒めてねぇじゃんかよ」
櫂の、好きな奴。
ズキッ
胸の奥の辺が締め付けられたみたいに痛くなった。
櫂が好きな奴。
俺が知ってる奴?それとも知らない奴?俺以上に櫂を知ってる?それとも知らない?お前を幸せに出来る?それとも出来ない?片想い?それとも両想い?
(ダメだ。すげぇムカつく)
俺の知らないトコで、知らない櫂が知らない奴と一緒にいるって想像しただけで胸がズキズキして苦しい。
「…けど」
「けど?」
「変なぐらい優しくて、いつも俺の傍にいて、ソイツの笑顔に俺はいつも救われてきた」
(…櫂?)
「苦しくて、怖いときも…ソイツのことを思い出せば、俺はいつも強くいられた」
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴る音が聞こえた。いつの間にか教室には俺と櫂しかいない。
そう言えば5限目は移動だったけ。けど今さら授業行こうぜなんか言えない。
櫂の言葉を遮りたくなかった。最後まで聞いてやりたかった。
「だから俺はソイツに感謝してるし…好き、だと思う。」
『好きだと思う。』
ズキッ…ズキ、ズキズキ
痛い。
「そっか。櫂にもそんな風に思える奴がいるんだな。」
そう言ったとき、櫂がすごく傷ついた顔したように見えた。
「………、か野郎」
「か、い?」
いつも強い意志を持った翡翠色から流れる一滴の雫。
すぐに拭ってしまったけど、その雫は俺の目に焼き付いて離れなかった。
櫂が、泣いてる?
「…俺、は…お前がっ」
『好きなんだ』
すごく小さな、今にも消えてしまいそうなか細い声が、そう紡いだ。
櫂が、俺を好きだって?
「ずっと、お前に救われてきた。いつも傍にお前がいてくれたから、三和が…いて、くれたから」
「櫂、俺…」
好きだよ。櫂が好きだ。めちゃくちゃ好きだ。綺麗な翡翠色の目とか、たまに見せる小さいけど嬉しそうな笑顔とか、不機嫌な顔も憎まれ口しか言えない不器用で、でも本当はすごく優しくて寂しがりやなとことか、全部。
櫂の全部が大好きで、愛しくて…
「俺も櫂が好きだ!」
「み、わ…」
「櫂が好きだ。何よりも、誰よりも。誰にも負けないぐらい櫂が好きだ!」
嘘なんかじゃない。同情とかでもない。
本当に、本気で櫂が好きだ。
「ありがとな、櫂。俺のこと、そんなに好きでいてくれて」
そう言って俺は櫂の額にチュッと小さな音を立てて口付けした。
櫂は少し赤くなって、でも嬉しそうに笑って
「バカ…こっちの台詞だ」
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴る音が聞こえた。でも俺は気にせずそっと櫂の唇に自分の唇を重ねた。
「ちゃんと断ってくるからな、櫂」
「当たり前だ。バカ三和」
素直になれたら、明日は晴れるよな?