(後半年齢操作有)










一番最初の相手は歯ブラシだった。奥歯を磨こうと口の奥へと突っ込んだらまるで胃が捻れて踊るような感覚があった。頭蓋骨がきゅうきゅうと血液を溜め込み、涙が眼球を押しのける痛みに苛まれた。上顎を勢いよく滴る液体と半固体が洗面台に叩きつけられ中心へと吸い込まれていく。おかげさまで朝食が全て無駄になった。
次の相手は自分の指だった。弁当に入っていた白菜キムチが歯に挟まっていらいらしたので洗面所で取ろうとしたのだ。前回のこともあり、細心の注意を払ったつもりだったが、指が滑りうっかり舌の奥に触れてしまった。刹那の既視感と軽快な水音と醜い自分の声。鏡には吐瀉物に汚れた口を醜く歪ませた自分がいた。おかげさまで昼食が全て無駄になった。
三回目は鬼道君の指だった。隣で寝ている彼の指が余りにも愛おしかったので(、と言うのはほんの建前で実際はもっと汚い肉欲的なものだったんだけどまぁとりあえず)鬼道君の指を咥内で玩んでいた。熟睡していると思ったのだけどさすがに違和感を感じたのか彼は目を覚ました途端僕に抗った。身じろいだ勢いで彼は僕の舌根に触れた。そこからは起きてはいたが光景はさながら悪夢だった。おかげさまで夕食が全て無駄になった。

意識的に嘔吐するようになったのはいつからだろうか。酒を飲むようになってからか、それとも鬼道君の恋人になってからか。彼は僕の嘔吐嗜好癖を哀れみもしたし慈しみもした。気持ち悪がられないか危惧したが、どうやら彼はむしろそこに何かの感情を覚えるらしい。そして嘔吐する度に彼は言った。
「安心しろ、お前は美しい」
きっとそんなの鬼道くんだけ。声にならない声で悪態をつく僕を、彼はそっと抱き寄せ愛おしむように口元に手を這わせる。そんなわけで今日も僕は、僕に負けず劣らず美しい彼の指を己の舌と喉を尽くして精一杯玩ぶのだ。






需要と供給
thx 嘔吐企画
110812