当たり前だが鉄なんか食べたことは一度もない。だが殴られた口元を舐めると嫌でも意識する。不味い。
「好きだよ、鬼道クン」
馬鹿言うな、と言おうとしたらまた殴られた。身体がきつい。馬乗りされる側というのは嫌でも体力を使う。腹に乗られて呼吸がしづらいからだ。殴られた衝撃で頭がぼぅっとする。不動の顔が目の前にくるのが見えた。反撃しようにも両手をベッドの端に括り付けられてどうして殴り返せるだろうか。唇が触れた。拳とは裏腹に優しいキスに吐き気がした。ぬるりとした明らかに自分のものでない粘液とそれを纏って動く舌の感触に、不覚にも下腹部が熱くなる。咥内に侵入するそれを思いっきり噛んだ。恐らく俺に出来る唯一で最後の抵抗だった。不味い。鉄を示唆する味がした。ちりりと痛む自身の唇と同じ味がした。不動は瞬時に身を引き、苦しそうに口を押さえた。しばらく呻いていたが、押さえていた手を外した不動は噛み痕のついた真っ赤な舌をべろりと出して笑っていた。
「鬼道クンの唇と俺の舌、」
耳を塞ぎたかったが前述、許されなかった。





同じ味がするね
101118