木の根元が醜くうねっている。眼球を右側へ動かした佐久間の上には桃色の雪が散る。源田は帰路の公園のベンチに寝そべる親友を見つけた。声をかけようか思索していると、人の気配に気がついたのか、佐久間はごろりと反転した。地面と並行のまま佐久間は幸せそうに笑った。
「桜が綺麗だぞ、鬼道」
佐久間は幸せそうに笑った。
一年と半年前から佐久間はおかしくなった。静かに、穏やかに狂っていった。先ずサッカーに対しての執着が消えた。次に学校に対しての義務感を棄てた。そして時間による拘束を感じなくなった。それは鬼道が受験に備えて2年の夏休み空けに退部届けを提出した翌日からだった。
佐久間は昼間、公園にいる。いつもは我が物のように独り占めしているベンチの隣に立つと、膝を抱えて人一人分のスペースを空けてくれる。そこに腰掛けると佐久間は木の話をする。ベンチの隣に植えてある桜について、その根や枝や花やそこに留まる生き物の話をする。
もしこれがお伽話なら、口づけとか魔法とかで元通りになるのだろう。
「体調に変化はないか」
「キスしたい、鬼道」
どうなるかは愚問だ。なぜならこれはお伽話でも何でもない、ただの現実なのだから。唇を離した佐久間はいつもと同じように幸せそうに笑った。
「ここの桜、今が見頃なんだ。源田達には秘密だぞ」
佐久間は笑って再び俺に口づけをした。





狂気に甘える
101118
title にやり