夢魔 2
鋭い痛みで目が覚めた。
あぁ、臨也に耳噛まれたんだ、と客観的に見てから思い切り睨む。
「ゴメン、ね」
自嘲的に笑ってそう呟く臨也の髪を撫でる。
文句、言ってやろうとしたのに先に謝るなんて、狡い。
「痛い」
「うん、血出ちゃったかも」
「痛い」
「…だからゴメンって…」
初めは困った表情だったが、なにか、悪戯を思い付いた子供みたいに笑った。
「本当に…ゴメン…」
「…ん、」
耳元で低く優しく囁いたと思ったら、怪我した部分を丁寧に舐めはじめた。
傷口がビリビリする。
なんか…痺れる。
「っ…はぁ…」
「キモチイイ?」
「…馬鹿…しつこ、いっ…」
「馬鹿、なんて。この口が悪いんだよね?」
噛み付くようにされるキス。
これも、しつこいぐらい沢山される。
あぁ、どれだけ苛立って居るんだ。
静雄の夢でも見たのか?
「……名前、好き」
「ん、?」
「居なくならないでね?そんなことになったら俺、名前の事一生怨むから。嫌がらせするから」
「はいはい、素直に愛してるって言おうか」
「別に名前なんか…」
「居なくなっても構わない?」
くしゃ、と泣きそうになる。
そして縋るように俺を抱き締める。
「愛してるよ…世界で一番、誰よりも名前が好きなんだ…だから…」
「居なくならないよ、約束したでしょ?
もう二度と臨也の前から居なくならない」
「そう、だね」
やっと安心したのか、腕の力を緩めた。
「…屈辱…だなぁ…。名前なんかに、弱音吐くなんて…」
「私にしか、弱音なんて吐けないくせに…」
「…うん…」
「辛いなら辛いで、もっと甘えていいんだよ?」
「貸しにされそうで怖いんだけど」
「当たり前でしょ?その分、私が臨也に甘えるから良いの!」
「じゃあ名前が俺に甘えて貸しを作った分だけ、甘える事にするよ」
「えー?」
「いいじゃない」
「なんか不服ぅー」
二人で微笑って、全てを忘れるように唇を重ねて、もう二度と悪夢など見ないように────
夢魔-不思議の国のアリス症候群-
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